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PLASTIC FISH

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09.星空は見えず(9/15)



「水とお茶、どっちがいい? ごめん、コーヒーって選択肢が何でかしらんけど浮かばなかった」
「……お茶で」
「ん。お、これおまけついてる。折り紙だってさ。ふふ、樹さんの折り紙テクニックを見せてあげようか?」
見せたいらしい。
「はあ」
「……なんなら、昨晩からのいきさつを説明するけど」
パンを食べ終え、小さな折り紙を律儀に折り始めた樹が、ふとつぶやいた。京は聞きたさ半分聞きたくなさ半分といったところで、詳細に語られるのは嫌だったが聞かないわけにはいかない。お茶を一口飲んだあと「お願いします」と少しためらう調子で返した。

「公園で、話をしてた。そしたらみやちゃんが倒れちゃったから、私の家に連れて帰った。以上」
「……普通、倒れた本人の家に行きませんか? そういう時」
「酒の匂いもせんのに、深夜『お宅の娘さんが倒れましたー』なんていうのも面倒でさ。それに、みやちゃん」
確認の意を示すかのように言葉が止まる。相手が返事を待つ時は大抵ろくなことを言わない、京はもうどうにでもなれと思った。
「はい」
「病院行って検査されたら、厄介な体なんでしょ」
「……」
うなずくべきか、首を横に振って否定すべきか、迷う。
確かに、厄介といえば厄介だ。血液検査だけでも厄介だ。きっと、今の自分に正常な数値は期待できない。
だが、すんなりとそういったことを口にしてみせる樹を見て、ああ、昨晩のことは夢ではなかったのだと――そう確信を持たされてしまったのが、悲しかった。
「うむ。黙秘権を与えよう。だから違うことを一つ質問してもいいかな」
「どうぞ」
「それ……アルバム、見たんだね。ということは、見たかな。私以外に見知った顔がいたことを、理解したかな」
「樹、……えっと、樹さん」
「ん、さん付けの方がなんかいいね。それで」
「……樹さん。あれは、あの女の人は人間なんですか? それともまさか、私があそこに足を踏み入れる前に、イヴの試起動などが行われたとでも?」
「イヴじゃないさ、同じ時代を生きた人間だよ。名前は水城。ああ、イヴに水城と名づけたのも私だし、モデルを選んだのも私さ。水城はね、」
「……」
樹は、京には言いたくないとでもいうように――一瞬表情を曇らせた。はねた髪の毛の先をなで、次をためらう。
数秒の沈黙は、さして短いものでもなかった。

「水城はね……私がかつて愛した女だ。そうだ、京。君には全てを話そう、昨日の夜あそこまで言ったんだ。共犯にとは言わないが、知ってもらう権利がある」


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴