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PLASTIC FISH

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09.星空は見えず(5/15)



「私は、受け入れるよ」
「……樹、さん」
「君を好きになった。君の幻を見ては愛をささやき続けた。今更、君が人間だとか人間じゃないとか、そんなことが関係あるのかな?」
「あるわ。好き勝手言ってくれるけれど、忌々しい。全てを分かったようなそんな口ぶりをしないで。不快だわ」
苛立ちを思い出したのか、多少の勢いを取り戻し反撃を繰り出す京。
「……」
「自分にとって都合のいいことばかり並べ立てて、恥ずかしいとは思わないの? 子どもじゃああるまいし、わきまえて」
「そうか。そう取るか。まあ、最低のパターンじゃない」
「黙りなさい」
風が吹く。木々の葉がこすれては揺れ、音を立てる。月も満ちるには遠く、気持ちのいい夜ではない。
――しゃん。
弱い一つの風とともに、鈴の音が遠くに響く。だが、それも一回きりのこと。満ちる回数を数える前に、かき消えた。
「……好きにするといい。私も好きにするとしよう。君は考えずとも感じているようだから、多くを語る必要もない」
「好きに……」
暗に、血を吸ってみせろ、といっているのだろうか。空虚な瞳はまぶたに隠れ、ブランコのそばで樹は無防備な状態になってみせた。
ただ、立つ。それだけだ。
「……」
主の声も聞こえない。京は、ほんの数秒ではあるがためらってしまった。食欲はとうの昔に消えうせ、背中を押す者もいないところで何をしろというのか。

「ん。京ちゃん、時間切れ」
残念そうに、そしてどこか嬉しそうに、ゆっくりと視覚を取り戻しゆく樹。邪魔そうに、長い前髪をすっとかきあげた。
一歩。
二歩。
ゆっくりと、音もなく影を歩く吸血鬼のように、樹は視線の先にいる京へと近づいた。対する京は、動くべきだというのに動けない。
「……いつ、き……!」
悔しげに、唇を噛む。樹の日常にあったはずの明るい声を聞いて、何故か寂しさが止まらない。
もう戻らない。
知ってしまったために、もう戻らない。
知らない時に抱いた苛立ちなど、くだらないものだったのだ――そう思う京の横を通り過ぎるように歩いたところ、肩が並ぶと当時にぴたりと足は止まる。
「朝になれば、目が覚める。安心しな、君は人間だ。まだ、私の中では」
「――――」

感じた衝撃を、覚えている。
だが、その先は途切れたテープのように砂嵐や暗闇が広がるばかり。薄れていく意識を手放さないよう抵抗するも、それは叶わなかった。
倒れていく、傾いていく視界の中で、樹が表情のない顔でこちらを見下ろしていた。
ぷつりと、映像が途切れた。


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴