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PLASTIC FISH

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09.星空は見えず(1/15)



緑化計画。
摩天楼でありながらも映える木漏れ日に揺られていたいという、現代に生きる人間の図々しくも勝手な空想理論。
「(最近、聞かないな……)」
メディアは近頃、その四文字を語らなくなった。わずかな時間の中でも、摩天楼を形成する灰色のビルは地を塗り尽くしていくというのに。
日本は島国である上に、狭い。
「……見える」
脳裏に、焼き付いているのは地を行くには遠いヨーロッパ――ドイツの、樹海と言っても差し支えないほどの広大な森林。
昼のものではない。
獣が飢え、同時に眠る時刻、時代が中世であればこれ以上ない恐怖の領域。
満身創痍ながらも生き長らえていたのは、幼き双子の姉妹。
いつかの景色。

「なにが?」
「っ!?」
夜の公園。高階京は、座っていたブランコの鎖を激しく揺らせて飛びのいた。京の驚きに感応したかのように、彼女が離れた後もブランコの揺れは止まらない。
二つあるブランコの一つに、いつのまに現れ近づいていたのか、樹が微笑みながら座っていた。
子どもっぽく鎖を握る両の手。時折足をぶらぶらと前後させ、興味しんしんに京を見るさまはまさに子犬だ。
彼女には、言葉に言い表せない妙な雰囲気がある。人間、いや、きっとそれは人間に対してだけではない。相手の警戒心をほころばせ、硬く絡んでしまった結び目をいとも簡単にほどいてみせる。
だが、そんなにも開け放たれた大きな扉の先、樹の心模様は決して見えない。どす黒い、あるいは毒々しい何かが渦を巻いているように。
その中に首を突っ込むという行為は、例えるなら生きたまま黄泉比良坂を越える、そんな無謀さを必要とする。
「なにが見えた?」
「い、いえ……別に……」
「そっか、見えなかったか」
興味が京の見ていたビジョンから他へ移ったのか、樹はふいっと京に横顔を見せる体勢になり、つまりは正面を向き、ブランコをわずかに揺らした。
はるか上を見上げ、寂しげだがなおも笑う。
何も考えていないように見えて、京が今見つめている樹の横顔は、とても深いものだった。本当に笑っているのか、果てなき深淵を覗くようで恐ろしい。
大げさな表現が続いているかもしれない。
だが、今の樹は昼を共にした時と同じようで違う。憂い、かげり、考えもなしに突っ込んでいくように思えた樹にはありえないであろう感情が、弱い電流のように京の内へ伝わってくる。主語のない簡単なやりとりの中に、危険な匂いがする。
「見えないね」
「え?」
「隣、座りな。わかるから」
せわしない人だ、と京は思う。体の通り正面を向いたかと思えば、すぐにまた京の方を見やって左手で手招いてみせる。
先ほどから感じる予感にも似た不気味さに警戒しながらも、仕方ない、そう判断した京は一度は飛びのいたブランコにまた腰かけた。
うながされるままに、頭上を見る。
「はぁ……」
ため息が漏れた。
キイキイときしむ鎖が、冬の夜気とまざりあって冷たさを増す。だが、嫌悪を示すような材料は何もなかった。
そう体が声なき声で言う間、ずっと京は頭上に広がる『見えない何か』を探していた。少しの風に木々がざわめいている。
広がる空に、
「……見えないでしょ?」
「はい?」
「星」


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴