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PLASTIC FISH

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07.ルナティックトーチ(6/6)






「(甘い)」
短いが、素直で無駄のない感想だった。
あの男の吐いてしまいたいほど不味い血とは大違いだ、こっちの方がずっといい。良い『力』になってくれそうな気がする、京は喜んだ。
「よくできました」
「っ!?」
耳元で、やたらに存在感のある声だった――隠し事がばれたと言ってもいい状況だ、無理はないのだが。
慌てて口を離し、真の表情をうかがう。目を気持ちよさそうに閉じたまま、口だけが眠っていると言えないほどに微笑んでいた。
くすくすと、口元を隠しながら真が笑う。全てお見通しだったとわかると、京は紅潮を抑えきれずなんともいえない気持ちに包まれた。
「どうして舐めたかわからない、といった様子ね。痛いのは嫌だと言ったのはあなただというのに」
「そ、そうだけれど……」
「教えておきましょう。吸血鬼の唾液にはね、麻酔作用があるのよ。そして同時に、傷がふさがるのを妨害する機能をも併せ持っている」
「出血多量で死ぬじゃない……」
「そう。まあ、慣れてくれば双方のバランスをコントロールできるようになるわ。暗示を使えば、痛みを倍増することもできてよ? 京」
いたずらっ子のような口元と、開かれた瞳を自分に向けられ京は白旗を振るほかなかった。

「夜明けが近いわね」
数十分ほどだろうか、それなりに長く続いた沈黙をやぶったのは真だった。
すっと上半身を起こし、淡々とブーツをはきはじめる。
「……吸血鬼も、人間の造った家に住むの?」
どこから来て、どこへ行くのか。生まれてから死ぬまでを流浪に費やす吸血鬼が人間の造ったマンションや一軒家に住んでいるとなれば、少々滑稽だ。
とはいっても、昼間はうかつに外に出ては紫外線の餌食となってしまう。
出会ってからずっと、真が京に接触してきたのは夜だった。吸血鬼は太陽光を嫌うという話もどうやら、あながち嘘でもないらしい。
「半々。今は……廃棄されたビルに住んでる」
そう言ったあと、小さな声で『先住していた人間は噂のおまけをつけて追い払った』と言い足した。
「どこにあるの?」
「言えない。言ったらあなた、来るでしょう」
「不都合が?」
「……見目のいいものじゃないわ。あんな場所にあなたが来るということは、それは……完全に人間の世界から去らざるをえなくなった時でしょう」
勝手な言い草だった。
自分から吸血鬼の世界へ招いておいて、真はまだ京が人間の世界に帰れるかもしれない、などと矛盾したことを言っている。
一緒にいたいのか、いたくないのか。主人としもべという誓いはそんなにも軽いものだったのか。京は発言する気をすっかりなくしてしまった。

「ごきげんよう。時が満ちればまた……会えるわ。私が死なない限り、必ず」


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴