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PLASTIC FISH

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03.きざし、ほころび(7/8)



夜がふけてゆく。
メイン以外の電力は供給もままならず、復旧を優先せざるをえないこのビル内に、辺りを闇に包まれてもなお残っている人間はわずかしかいない。
「(わからない)」
京は、自問自答をただ繰り返すばかりだった。中枢、アダムとイヴの眠る部屋はそれほど広くない。
羊水ともいえる液体に穏やかに満たされて、動きもしない心臓は鼓動のまねごとを――することもない。するのは、いつになるだろうか。
傷一つない肌。触るだけで、傷つき穢れてしまいそうなほどにはかなく感じる、ガラス越しの二つの人形。
数多くの犠牲の上に生まれる、御使い達。
「貴方達なら、知っているはず。見たはずよ……あの夜、私に何があったか……」
冷たいガラスに、京の両手が触れた。二体は、まぶた一つ動かさない。生きていないし動力もないのだから、当たり前だ。

――しゃん。
「そう……覚えてる。あの夜も、鈴の音が闇の中で響いていた」

――しゃん。
「ねえ、私なの? ここをこんなにも破壊して回ったのは、裏切り者は、私なの?」

――しゃん。
「それなら、何故私は覚えていないの? ここにいたのに。あの満月の夜ここにいたのは、私だけだったのに!」
「教えてあげましょうか」

――しゃん。
共鳴するように、心臓の鼓動が強まった。そっとささやかれたその声は、聞いたことはあれど、同僚のものではない。
違う。それ以前に、人間のものではない。本能が、隠れた記憶が、必死にそう伝えてくる。
「誰……」
視線をアダムとイヴにやったまま、京は硬直した。振り向くのが、これ以上ないほどに怖かった。
鈴の音とともに、誰かが自分の後ろに立っている。きっとその表情は、いたずら好きな子どものように微笑んでいる。愉しんでいる。
気配が、近づいてくる。
「誰なのッ!?」
もう、どうにでもなれと――京は、振り向こうと素早く動いた。
けれど、そこに人影は見えず。
けれど、振り向くことすら叶わず。
彼女の視界は、冷たい感触とともに閉ざされた。


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴