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PLASTIC FISH

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02.かりぬい(5/7)



「――っていつも言ってるでしょう、私の話は聞きなさい」
誰かが私の声で喋っている、京の心に焼き付いて離れないその光景が、フィルムのように再生されている。
「やーだ。だって、桂の話小難しいんだもん。私は誰のものにもならないの、おわかりぃ?」
誰かが知らない声で喋っている。
古めかしくほこりをかぶった記憶の内で、一つに結んだ黒髪が踊る。その相手は、いたずらげに笑い、手袋をはめた手でメロイックサインを示してみせた。

フィルムが、飛んだ。これだけ古いのだ、傷一つないというのも無理な話である。狂ったレコードのように、あるいは割れた鏡の破片のように、残滓がまたたく。

「何よ、これ」
「あの人がずっと、持ってたもの。もっとも私も、遺品整理をするまで知らなかったのだけれど」
一つ前ではおぼろげだった、黒髪の人物が今はくっきりと映っている。京より、若い。いや、若く見えるだけなのだろうか――わからない。
対して、『桂』と呼ばれた女は、面影もわずかにというほどに老け込んでいた。オリーブグレイの髪には白髪も多く混ざり、艶をも失っている。
喋り方こそ強気そのものだったが、声自体は……いや、今更説明するほどもあるまい。
「ふーん。ただの……じゃないの。まあ、あげるって言うんだからもらってあげなくもないけど」
「今は、ただのおもちゃだけれどね。それも昔はちゃんと、人でないものを誘う力を持ってたのよ」
「何百年昔よ」
「知らないわ。まあ、そういうものだから……気が向いたら、入れ込んでみては如何(どう)。お仲間が見つかったらいいわね」
黒髪の人物の顔が、曇る。受け取った『おもちゃ』をもてあそぶ手を止めて、まっすぐに桂を見た。
「私が今更、あんたとか……以外と出会ったって、それに何の意味があるのよ……やめてよ、いかないで。一人にしないで……私を独りにしないで」
意味を、察したのだ。自分はこれから、この広い世界に独り残されるという、未来が見えた。涙をぽたぽたと落とす姿を見、わずかに笑う桂。
「そう、して……流せる涙があるなら、貴方は人間として、生きて、いける……。だから、……と、貴方は、ひとりじゃない」
「嫌! あんたが思うほど、私は強くない。お願い、いかないで、置いていかないで。探すから、あなたたちをずっと、探すためだけに私は生きるから――」


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴