PLASTIC FISH
01.幻日(9/10)
撃ったのは、何年ぶりだろう。
半年に一度は、死体を撃たされていた気がする。動く的を相手にも。必ず二発撃てと教えたのは、一体誰だったか。
肩が痛い。
手がしびれを訴えている。
ああ、そうだ。
生きている人間を撃ったのは、はじめてだ。
「くっ……」
両腕に強い衝撃を感じ、撃ったと確信できた。はじめてでもわかる。弾が相手の肉を裂き、骨を響かせ、ズタズタに内部を傷つける実感が。
京の狙いははじめてとは思えないほど精密だった。
急所を狙う余裕こそないものの、人間が二発もの銃弾を食らえば何事もなかったかのように振る舞えるわけがない。
その上、相手は心が乱れていた。屈強ではない、きっと今頃入り口付近に倒れて、ああ、後始末はどうしたらいいんだろう――朝になれば誰か――。
色々なことをめぐらせながら、京はおそるおそる入り口を見た。
そして、言葉を失った。
いない。
どこにも、自分以外の人間がいない。
おかしい、そんなはずはない。扉のそばに隠れた? まさか、弾は確かに手ごたえがあった。刃物じゃあるまいし直接傷つけたわけではないので確信は保証できないが、確かに当たった。
男だった。そう大きくもない、そして、いうならどこかの悪さをする青年のような――あまり、がっしりとはしていなかった気がする。
「(どこ、どこなの……)」
銃を持ち直し、後退しながら周囲を見渡す。目が慣れているとはいえ窓から入る月明かりを除いては真っ暗闇だ、人間の京にはそれほど超人的な視力はない。
限界がある。
窓際に背が当たった時、京は部屋の静寂さを実感し大きく息を吐いた。そして、二度目のミスを犯すこととなる。
前進したのだ。
窓際に背水の陣をしいていた方が安全だろうに、京は来た道をまた進み始めた。そして、デスクが途切れ、通路に辿り着いたところで、
「……う、あっ!?」
突然、京の肩を何かが掴んだ。それが手だ、と認識する合間に京は再度強い衝撃を後頭部と背中に感じる。
デスクに体を押し付けられたのだ。ガタンと派手な音が部屋に響いたが、そこには京ともう一人をのぞいて、誰もいない。
手首を折る勢いでひねられ、銃を床に落としてしまう。メスを隠し持っておけばよかったか――そう思いながら眼前を見た京は、がくぜんとした。
作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴