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PLASTIC FISH

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B-side15.悠久の中で(2/4)



夜が続く。
しばらく走っているだけで、追ってくる者がいる。まったく、おかしな世の中になったものだ――真はおかしいと笑った。
たった数十年しか経っていないのに、これだ。
異国から流れ込んできたのかなんなのかは知らないが、同族ともいえぬ低俗な輩が多すぎる。
迫害されてきた吸血鬼とて、闇の眷属だからと何でも受け入れるわけではない。
仲間とも呼びたくない下賎なものは潰す。それだけだ。
同族扱いなどされたくない。

「……あの子も、本当に誰に似たんだか……」
走る速度を速めながら、真は先ほどの言葉を自身への問いにかえて繰り返した。
無月を手にした当初は、へっぴり腰で返り血を浴びるたびに動揺していたというのに。今では刀を体の一部とし、立派な鬼切りの鬼と化している。
下賎な吸血鬼を相手にし、対峙する時――京は、心のどこかで笑っている。
殲滅しては、屍の山を積み上げては、愉悦に満たされている。
変わってしまった。
あの子は、変わってしまった。
「沙耶は、あそこまで非道だったかしら……」
思い出す。
かつてともに戦っていた、残月を手馴れた手つきで扱いこなすあの麗しい姿を。凛とした態度を。
まるで、踊り子が舞っているようだった。流れるような動きで敵を牽制しては傷つけ、道を開いていた。
――だが、愉しんではいなかった。
残月は血の味を拒みこそしないが、求めてはいなかった。
また、繰り返すのではないか。
最近、京の内で回る歯車が少しずつ歪みだしている気がする。自分の知らない、京が生まれようとしている。
確かに今のような戦いの毎日に身を投じさせたのは自分だ。責任は全て自分にあるといってもいい。
「だけど……」
はじめてあった日のことを、今でも鮮やかに覚えている。
繰り返し夜を過ごすたびに重ねていった京との思い出を覚えている。
抱きしめて、知った京の脆さを知っている。強く、抱きしめたらそれは骨さえ砕いてしまいそうな――だというのに。

いつか自分から離れていくのでは、という不安が真の脳裏を走り抜けた。
離さないと、二度ともう離さないと決めたのに。そう誓ったのに。胸が痛む。これほど痛んだのは、久しぶりだ。
「……」
一人でいると、嫌な未来ばかり想像してしまう。
それならば、忘れてしまおう。数時間後、あの子と合流するまで、自分は自分というものをどこかにやってしまおう。
立ち止まり、振り向いた。
追ってくる影は二つ。何か叫んでいるようだが、聞きとれない。まったく、掟も知らない馬鹿が増えたものだ。
「……運が悪いわね、あなたたち」
相手に聞こえなくてもいい。聞かせる声などないと、そっと呟く。
「死ぬよりも苦しみなさい、この夜が明けるその時までッ!!」
シースを、抜いた。
疲労を感じさせない走りで、人影の方へと向かってゆく。黒い死神が、そこにはいた。


作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴