PLASTIC FISH
B-side13.記憶の扉(3/5)
「二人の事情はその時まだ知らなかったけれど、利害の一致ということで停戦した。そして、共闘することとなった」
「……」
「私は、誰にも死んでほしくなかった。犠牲の屍が積み上げられていった矢先に、私の心は限界量をこえて、戦うことを拒んだ」
――そうしたら、殴られちゃったけどね。
そう、真は皮肉めいた笑みとともにつけたした。あなたと同じ顔をして、あなたと同じ声で喋るその存在に、なさけなくも説教されてしまったと。
「……ごめんなさい」
「何故あなたが謝るの?」
「謝れと、貴方の瞳が訴えていたから」
「別に根に持っているわけじゃないわ。まあ、当時の私は弱かったから現実を見たくなくて逃げ出したけれど」
――もし、あの時逃げ出していなかったなら。守れただろうか、手の内にあった全てを。
真が決意して戦場に戻った時、その状態はこれ以上ないほどにボロボロに崩れていた。
鋭すぎるほどの力と技を持った双子の姉は倒れ、妹は複数を相手に押されつつあった。それでも、妹は姉を守るべく対峙していた。
自分の命をかけてまで守るほどのものなのだろうか、というのが戦況を見やる真の正直な疑問。
痛い思いをして、そんなにも苦しんでまで、そこまでして。
「でもね、その時私の足は動け動けといわんばかりに急いていた。……わかるかしら」
「真……」
「同じ顔で見つめないで……枯らした涙が、またわいてくるかもしれないじゃない」
「いいわ」
「……嫌よ、今更」
「泣いてもいい。私にだけ、それを許すのは不公平だとは思わない? 過去のどんなに強い想いを引きずっていても、私は貴方のそばにいる」
「……」
ありがとう、と言おうとしたが真の口は動かなかった。かわりに、回想の続きが再び紡がれていく。
真は、震える体をおさえこみ、恐怖をしまいこみ、戦いつづける双子の妹――桂のそばへ駆けつけた。
一人で越えられない苦境ならば、二人で越えればいいい。青臭いと笑いながら、桂は姉に向けるやさしさをたたえて、真に微笑む。
長い冬が終わろうとしていた。
だが、その門は狭く、三人が通ることを許さなかった。
「……守れなかった」
「え……」
「沙耶の命も、桂の心も、守れなかった。全てが終わって、沙耶を弔った後は……ずっと、桂のそばにいたわ」
「……」
「汚い考えだったわ……優しく抱きしめて、私がいる、ずっとそばにいると甘い言葉をささやきながら、私は何よりも醜い考えを深層に抱えていた」
「一体、何を」
「振り向いてくれると思ったの」
「え?」
思わず、京の声がうわずった。動揺していたわけでもない。予想もしなかった言葉に、驚いたのだ。
「あの子の心には、姉でありパートナーである沙耶しかいなかった。二人は二人だけで世界を完結させて、だからこそ強くあった」
「……」
「だから……沙耶がいなくなった今なら、失った今なら私を頼ってくれるかもしれない、心のよりどころにしてくれるかもしれない……依存してくれるかもしれないと、期待した」
「真……」
「でも、何十年経っても桂の目はいなくなった姉を追いかけていた。桂の心は、爛れ壊れた。痛々しいそのさまを見てもなお、私はずっとそばにいた」
作品名:PLASTIC FISH 作家名:桜沢 小鈴