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ツカノアラシ@万恒河沙
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Rの晩餐

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昨夜、ふらりと立ち寄った酒場での意気投合した女の話によれば、この建物の住人は並外れた宝石コレクターとのこと。しかも、今日いる住人はどこぞの良家の子供と、そのお付きの優男と、美女のメイドが二人。他にも何人か住み込みの人間がいるらしいが、今日は留守とのこと。恐れるに足らずと言うのは、こういう状況の事を言うのだろう。二人は、結果をわくわくしながら煉瓦造りの建物に近づく。入り口を避けて、建物の横へ。そこには、すっかり錆び付いた外階段があった。二人はいまにも崩れそうな鉄製の階段を昇る。昇る。怖い。昇る。金のためならと割り切る。昇る。最上階には、階段と同じくらい錆び付いた扉があった。佐藤が試しにノブを回すと、あっけなく開く。まるで、誰かを待っていたかのように。しかし、二人はすっかり宝石に目がくらんで、おかしいとも何とも感じない。
扉の向こうは、真っ白な部屋だった。部屋の中心には、白い細長いテーブル。テーブルの上には、赤い屋根のドールハウスが無造作に置かれていた。二人は、ドールハウスの前を通り過ぎようとするが、ドールハウスの中から音がするのに気がついて足を止める。ドールハウスは、二つの階段室を含めて8部屋。上から子供部屋、寝室、書斎、風呂場、台所に、そして食堂室。その食堂室から、音は出ていた。真っ白な食堂室の食卓の前には、真っ赤な目を持つ白兎と黒兎が燕尾服を着て座っていた。首にはナプキンを巻いている。腰には大きくて良く切れそうな鋏を帯同していた。どうやら、二羽は食事を待っているらしい。そして、二羽はぎこちない動作で食卓の上の大きな白いお皿を手に持つフォークとナイフを交互に皿の縁を叩いていた。キンキン、キンキンと割れんばかりの金属と陶器がぶつかる音が響き渡る。
「めーし、めーし、めーし」
「めーし、めーし、めーし」
白兎はキイキイ声で、黒兎はハスキーな声で、声を揃えて言っていた。なかなか良くできたおもちゃである。佐藤と塩野は顔を合わせて、何だか悪いものでも食べたかのような顔をする。初めて、何かしら感じたらしい。しかし、口の中で宝石宝石と呪文のように唱えて、ドールハウスを見なかった事にした。なかなか、現実的で潔い事である。