異人館
この店の店主は黒田征四郎と黒田白雪と名乗る奇妙な双子の姉弟である。黒田征四郎は黒い丸眼鏡に黒い支那服姿。黒田白雪は白を基調とし、白いチャイナドレスに黒いレース長手袋に黒いブーツでアクセントをつけたふわふわした姿。話によると、この店の本当の持ち主はこの二人ではなく、別にいるらしい。時折思い出したように来ては、難題を押し付けて行くのですよ、あの人はと黒田征四郎は微かに笑って言う。
店内には紅茶の匂いとスケーターズ・ワルツ。そして、甘い匂い。
それはもかく、二人はひなが一日お茶会開いては仕事そっちのけで愉しんでいる。たぶん、明日で世界が終わっても二人でお客を招待してのんびりお茶をしているに違いない。あー、やだやだ。
『葬儀屋のば−』(酒場)
蔵を改築したあやしげな名前のカクテルを飲ませるお店。いや、無理に漏斗等で客に飲ませる訳ではないと思う。知っている限りでは、その筈である。
この店の店主は燕尾服を来た「葬儀屋」と呼ばれる顔の見えない若いと思しき男。不思議な事に、彼の顔が解らなくても、誰もその事を不思議とは思っていないようである。是非一度、誰かにつっこんでもらいたいのだが、いつかその日は来るのだろうか。
そして、看板娘には、長いゆらゆらゆれる銀髪のシック調のヘッドドレスを付けた女中姿の可愛らしいが、その姿と反比例するかのように口の悪い少女が用意されている。彼女は『ギニョール』と呼ばれていて、その名の通り、まるで人形に見える少女である。因みに、夜な夜な乱痴気騒ぎをしているこの店内には、そこかしこに生きてる人形かとみまちがえるような人形がところせましと飾られている。噂によると、どうやら、時折この店では客が煙のように消えるらしい。困ったものである。
アモンリチャドーをもう一杯。
『ドクター・フ一・マンチュー』(中華料理屋)
この中華料理屋には、世界征服を夢見る青年と、金襴緞子のチャイナ服を着た凛々爛々と名乗る助手の少女がいる。実はこの店は意外や意外、味は天下一品のしろもので、彼の夢を知っている常連の客は是非とも青年の目論見が失敗することを日々祈っている。
作品名:異人館 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙