異人館
オテル・エトランジュの外観は、D・スーシェ演じるエルキュール・ポアロが住んでいたホワイトヘブンマンションを小型化したようなアールデコ風の洒落た建物である。間違っても、ホワイトホースマンションではない。
オテル・エトランジュは、ただ今入居者募集中である。
『一階』
一階には住人はいない。ただ廃屋のような雰囲気の漂う元は豪奢だったろう事を忍ばせるシノワズリーな造りのホールと、古風な様相をした昇降機と呼んだ方がいいような、黒い鉄製のエレベータがオテル・エトランジュへの訪問者を玄関から入って直ぐに出迎えてくれる。ホールに足を踏み入れると、白黒の市松模様の大理石の床に靴音が響く。かつ−ん、かつ−ん、かつ−ん。豪華な檻のような昇降機はぎしぎしと今にも壊れそうな音を立ててあがっていく。不思議なことに、この昇降機の古風な階数ボタンには、四階に行く階数ボタンが存在していない。
はてさて、いかにすれば謎と不思議の四階に行けるのであろうか。それは、東洋の謎と神秘なのです。また玄関ホールの壁には、高さ30センチ程度の扉がついているが、誰が使用しているのか何のために存在しているのかは、全く皆目がつかないが、真夜中になると扉の開閉する音と軽い足音がするらしいとも聞く。ホールの奥には、アールヌーボー風の葡萄の蔓が巻きついた青銅製の螺旋階段が続いている。この葡萄の蔓は、日によって巻きつき方が変わっていると云う話を言うものもいるが、真実は定かでない。ご興味がありましたら、一度ご観察あれ。玄関ホールに置かれた、古風な時計が時間を教える。
ボーン・ボーン・ボーン。
さて、お茶にしましょうか?くるくる回る砂糖菓子。
『二階』
作品名:異人館 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙