ぼくはしらない
結局、みよちゃんも、あの時落ちたはずのみよちゃんの靴の片方も、みよちゃんを食べたあいつも、何も見付からなかった。
それから子供の行方不明事件になって、学校も街も大騒ぎになった。
PTAだとか警察だとか、たくさんの大人が集まっては揉めていた。
子供もどうしたらいいのか分からないけれど、やっぱり集まって揉めた。
学校では、かくれんぼが禁止になった。
そんなことで何が変わるわけでもないのに。
消えてしまったあいつはまたいつか現れるのかもしれない。
その時は一体、どうなるんだろう。
あれから数年。僕はなるべくあの事件を、あの場面をなるべく思い出さないようにして暮らしていた。
あのときの仲間たちともほとんど会うことがなかった。
やはり最後に一緒に居たという事で、色々聞かれたり、探られたり、嫌な思いもしたせいか、みんなそれぞれに、お互いを避けていた。
クラスにも転校していく生徒が何人かいた。そのなかに、てっちゃんもいた。
てっちゃんだけは、僕が何かを知っているかもしれないと思っていたようだった。
でも僕は決して、誰にも、何も言わなかった。
信じてもらえないとかじゃなく、言ってはいけないことだと思ったわけでもない。
僕はただ、忘れたかったのだ。全部、「なかった事」にしたかった。何も見ていないんだと自分自身に言い聞かせるようになっていた。
そうして、忘れてしまったような気がしていた頃、僕は偶然、てっちゃんに会った。
声を掛けてきたのは向こうからで、僕は最初それが誰だか判らなかった。
戻ってきたんだと彼は言った。用事を思い出したんだと。
ぎこちなくよそよそしい会話をしながら、僕は彼が早く立ち去ってくれる事を願っていた。けれど彼は何故か、なかなか僕を開放してくれなかった。
そうして彼は、あの日の事を話し始めた。
「ねえいっちゃん。みよちゃんは何処に行ったんだろうねえ」
「・・・知らないよ」
「ほんとうに?」
「知らないよ」
「そうかな。きっと君は知っているような気がするんだけどな」
「なんでそう思うんだよ」
「だって君だけだった。彼女を捜そうとしなかったのは」
「っ・・・・そんなことはないよ」
「じゃあ、どうして君はあんなに怯えていたんだろう?」
「怖がりだっただけだろ」
「一番怯えていたのは1階の廊下だったよね」
「・・・・憶えてないよ」
「あそこはちょうど、理科室から見える所だったね」
「さあ、分からないよ」
「君は、あそこで何を見たの」
「何も見てないし、何も知らない。もういいだろ」
もう、たくさんだった。
思い出したくもない事をいちいちついて来る。
僕は彼を振り切って、逃げるつもりだった。
だけどそれは叶わなかった。
彼が、てっちゃんが、僕の腕をつかんでいる。
振り解けない位の力で。たいして力を入れてる風でもないのに。
「言ったでしょう? ねえ、いっちゃん」
彼が、てっちゃんが、いや、てっちゃんだと思っていたはずのものが、笑っていた。
ああ、これはまるで――
「鬼に捕まったら、食べられてしまうんだよ」
僕は、それが本物のてっちゃんなのか、それとも彼の振りをしていた何かなのか、確かめる事はできなかった。
なぜなら僕は。