ぼくはしらない
「いっちゃん、みーつけた」
え、と思ってふりむいたら、それはあの、あいつなんかじゃなかった。
戸をあけたからそこから明るくなって、ちゃんとかおが見えた。
「もう、こんな所にかくれるなんて。さがしたんだよ?」
ああ、てっちゃんだ。これはてっちゃんなんだ。
「てっちゃん」
あんしんしてぼくは、力がぬけて、なきそうになった。
「どうしたのいっちゃん。あ、そっか、かくれたけどこわくなったんだ?
自分からこんな所にかくれたくせにー」
いつもならぜったいにおこるはずなんだけど、ぼくはそれどころじゃなくて、ほんとうに見つかってよかったと思った。
そんなぼくのようすがおかしいことにてっちゃんはきづいたようだった。
「いっちゃん、だいじょうぶ?ぐあいでもわるくなったの?」
「ううん、そうじゃないよ」
てっちゃんに会えて、ほっとしたんだ。よかった。
でもすぐにだめだと思った。
だってあいつがいるんだ。みんな食べられてしまう。
どうしよう。
「てっちゃん、みんなは?」
だいじょうぶ? ぶじなの?
「ああ、うん、ほとんどみつけたよ」
「どこにいるの」
「こっち。教室だよ」
はやくにげなくちゃ。みんなにいわなくちゃ。
でもなんていったらいいんだろう。
みよちゃんが食べられたなんて。
いってもしんじてくれるだろうか。
・・・・だめだ。きっとみんなしんじてくれない。
そんなはずないってわらわれる。
どうしよう。
「・・・てっちゃん、あと何人のこってるの?」
「うん、いっちゃんがさいごから2番め。あとはみよちゃんだけだよ」
みよちゃん。
てっちゃん、みよちゃんはみつからないよ。だってみよちゃんは。
「ねえいっちゃん、しってる?」
きゅうにてっちゃんが、まじめなかおをした。
「え?なにが?」
「オニに見つかったら、食べられちゃうんだよ」
みよちゃんは。
そうだ、オニに食べられちゃったんだ。
「いっちゃんも食べられちゃうよ」
「えっ?!」
びっくりした。
ぼくはもしかして、てっちゃんがあいつになって、ううん、あいつがてっちゃんになっているのかと思って、すごくあわてた。
そんなぼくを見て、てっちゃんがわらいだした。
「もう、いっちゃんてばこわがりだなあ」
そういってわらっている。
「てっちゃん!」
からかわれたんだときづいたけど、でもてっちゃん、みよちゃんはほんとうに。
そうして教室にいったら、みんながちゃんといた。
みよちゃんいがいは。
みんなはひととおりてっちゃんの話をきいて、ぼくがこわがりだとわらった。
だってみんなはしらないんだ。
みんなだってきっと、こわいにきまってるんだ。
そうおもったけど、ぼくはなにもいえなかった。
なんていえばいいかもわからなかった。
「あとはみよちゃんだけだね」
「どこにかくれているのかなあ」
「あとさがしてないのはどこ?」
「だれかしらない?」
「もしかしていどうしてるのかな」
「かえっちゃったのかなあ」
「かばんもくつもあるみたいだよ」
そういいながらみんなでみよちゃんをさがした。
ぼくはやっぱりなんにもいえずに、みんなについていった。
いつあいつがあらわれてぼくたちを食べるのかとおもいながら。
* * *
やっぱりみよちゃんは見つからなくて、みんなで先生のところへ行った。
先生も大人も集まって、みんなでみよちゃんをさがしたけど、みつかるはずがなかった。
大人たちはおおさわぎで、じこだとかじけんだとか かみかくしだとかもめていた。
ぼくはみよちゃんがどうなったのかしっていた。
ぼくだけしか しらないことだった。
でもそれをだれにもいうことができなかった。
きっとだれにもしんじてもらえなかった。
だからだれにもいわなかった。