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ぼくはしらない

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鬼に捕まったら、食べられてしまうよ。
だれかがそんな事を言っていた。


「かくれんぼをしよう。」


言いだしっぺが誰だったのかは覚えてない。


      *   *   *


じゃんけんでオニになったのは、てっちゃん。

こっそりと見つからないようにかくれたのは2階の理科室。
黒いカーテンで、標本とかがたくさんあって、ちょっとこわい。


ずいぶん長い時間かくれているような気がするけれど、誰も来ない。
何だかこわくなって、ちょっと動いてみる。
そっと黒いカーテン(暗幕って言うらしい)のすき間から外をのぞく。

あ。みよちゃんだ。

みよちゃんは1階のろうかにいた。
見つかっちゃうよ。それとも もう見つかったのかな。

そう思っていたら、みよちゃんがとても急いでいる事に気づいた。
見つかりそうになって、別のかくれ場所を探しているのかもしれない。

でも、そうじゃなかった。

みよちゃんのうしろから、見たこともないような、なんだか分からない、ばけものみたいなやつがあらわれた。

おおきなくち、おおきなて、おおきなつめ、おおきなめ、おおきな――

みよちゃんがにげているのを見ながら、そいつは笑っているようだった。
そうしてすぐにおいついて、みよちゃんが、みよちゃんが、みよちゃんが


いそいでカーテンを閉めて、自分がまっくらな理科室にいることを思いだした。
しんぞうがどきどきして、どうしたらいいかわからなかった。

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・


おいつかれてつかまったみよちゃんは、そいつに頭から食べられてしまった。
みよちゃんの足がのみこまれていって、かたほうの足からくつが落ちていった。
みよちゃんを食べてしまったそいつは、またなにかを探すように歩き出していた。

こわい。
ぼくも見つかったら食べられてしまうんだ。
どうしよう。

どうしよう。
にげなくちゃ。

でも、
どこににげればいいんだろう。


そのとき、がらりとだれかが戸を開けた。

ぼくはほんとうに、しんぞうが止まるかとおもった。
はりさけそうなくらいにどきどきしていた。
そっちを見るのもこわくて、ううん、ほんとうは、こわくてうごけなかったんだ。
もうだめだ。ぼくはきっと、みよちゃんみたいに――

作品名:ぼくはしらない 作家名:yzn