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その扉を開けたら

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この10分、しゃべってたのはほとんど絵里とこの人だったんだけどそれでいいんかいな。
「そう言っていただけると助かります。ね?はじめ」
「え、えぇ。ありがとうございます」
「ところで、お仕事の内容ですが、既に詳細は聞いていらっしゃいますか?」
皆川氏がこちらに向かって聞く。
「はい、ざっとですが伺いました」
「それは良かった。僕のほうからもう一度説明しますと、狭山さんにはこちらに住み込んでいただく形になります。面倒を見ていただくのは共通エリアの清掃と先生たち食事の面倒、また経費の管理などになります。それから著作権や守秘義務の関係で、契約書を交わしていただくことが必須となりますのでご了承ください」
「はい」
「わたくしどもとしましては、狭山の所属はKOEという形にさせていただきたいと思っております。何かとそのほうが都合が良いかと思うのですが」
絵里が間に割って入る。
「えぇ、それでかまいません。そこは大田さんにお任せいたします。経費は毎月専用の口座に振り込む形にいたします、経費管理に関しても毎月報告書という形でお出しいただくことでかまいませんか?」
「彼女は元総務ですから問題ありません」
話がワタシを介さずどんどん進んでいく気がするけど、まぁこの際いいや。

そうして具体的な話をしていると、奥のほうでバンと扉を開ける音がした。
「お、出てきたかな」
皆川氏が席を立って奥の扉を開けて部屋を出て行った。

「ミナト君、もういらしてるよ」

奥の通路で話しているのだろうか、少し遠くでそんな声がした。
「あ、わかりました」
若い男の声。
なんだ、先生っていっても結構若いのか……ていうか、若くても先生になれるんだ。
「千寿先生はまだかな」
「まだだと思います。でも出てこないかも」
「仕方ないなぁ……僕ちょっと見てくるんでミナト君先に居間に行ってて」
「はい」
そんなやり取りが聞こえてきて、私は少し奥のほうをのぞき見た。
でも、スリガラスのドアに阻まれて様子は見えない。
「はじめ。おとなしくしててよ」
絵里が小さな声でワタシをたしなめたけど、肩をすくめただけで返事はしなかった。
「そんなことよりさ、絵里あの編集さんに気に入られてんの?」
テーブルに頬杖をつきながら、絵里に聞いてみた。
今はこっちのほうが興味がある。
「まいっちゃうけどそうみたい。でも仕事だし嫌な顔できないじゃない?」
へえへえ、社長様だもんね。仕事なくしちゃ大変だしね。
「まぁそっちのほうが仕事するには楽だからいいけど」
やっぱりそういうことか。
「あ、ホラ来たわよ」
扉の向こうに影が見えたので、ワタシはいそいで椅子に座りなおした。
ガチャリと音がして、先生の一人が居間に入ってくる。

「すいません、遅くなりました」

……え?

入って来た人を見て、ワタシは一瞬アレと思った。
だって、どこのモデル?っていう位のイケメンだったんだもん。
はい?作家先生でしょう?
作家って、イメージで悪いけど、なんか野暮ったくてもっさりしてるんだと思ってたけど。
こんなさわやかな青年でいいわけ?
「えっと……いつもお世話になっております、KOEの大田です」
絵里が席を立って挨拶をしたので、ワタシもつられて席を立って会釈する。
「はじめまして、狭山です」
「遅くなってすみませんでした。どうぞおかけください」
さわやか青年が私たちを促す。
さっきまで皆川氏が座っていた椅子の隣に腰掛けて、さわやか青年がさて、と仕切り直しを始めた。
「ええと、すみません。僕もついこの間皆川さんにうかがったばかりで、実はよく分かってないんですが」
こちらを見る。
「狭山さん?がこちらにご一緒に住まれるとか」
「え、えぇ。ルームシェアという形ではありますけど、共同スペースの清掃や食事の支度などを彼女が担当いたします。もちろん先生方のプライベートスペースには立ち入ることはありませんので、単なる住み込みのお手伝いさんとして考えていただければと思っております」
絵里が営業スマイルで説明を始める。
「そうですか」
さわやか青年がにっこりとこちらを見てうなずいた。
「僕も先月からこちらにお世話になり始めたばかりでまだ勝手もわかりませんし、それに恥ずかしながら食事には疎い方ですので、こういう形で狭山さんが来て下さるのでしたら心強いです」
なんだこの青年、顔もいいけど性格もいいのか?
絶滅危惧種だわ……。
「そういってくださると大変ありがたいです。彼女は私の大学時代からの友人ですし、非常に明るい子なので、きっとお役に立てると思います」
絵里はこのさわやか青年の言葉にホッとしたのか、すっかり仕事を取った気になってるようだ。

そんなことを話している間に、皆川氏がもう一人の先生を連れて戻ってきた。
「いやぁお待たせしてすみません。これで一応全員そろいました」
皆川氏の横に立っているもう一人の先生のほうも、ワタシたちよりも少し年上って感じの落ち着いた人だった。さわやか青年に比べたらイケメン度は低いけど、それでもなんかどっかの俳優さんっていってもおかしくないと思う位。
最近の作家先生ってみんなこんな感じなのかしら……。

皆川氏はざっとワタシたちの説明を2人にしてから、今度は先生たちのことを紹介してくれた。

「こちらの若い先生は、ミナト悠先生。今年の春にやったコンテストで大賞を取られた方です。いまうちで一番押したいと思っている先生なんですよ」
「そしてこちらの先生は、高良千寿先生。千寿先生は2年ほど前にデビューされて、先生の本が一度ドラマにもなったんで知ってるかもしれませんが」
スイマセン、シリマセンデシタ。
「はじめまして、狭山です」
一応2人にもう一度挨拶する。

しっかし、ミナト悠に高良千寿か……すごい名前。
でもこれって多分ペンネームなんだろうな。

「ミナト君、狭山さんとお話してみてどうだった?」
皆川氏がさわやか青年に声をかけた。
「いい方ですね。一緒に住んでも仲良くやっていけると思います」
「そっかぁ、それは良かった」
うふふ、と絵里が調子を合わせる。
……ワタシと話、した?いやしていない。
まぁ仕事がスムーズに決まるのはいいことだし、こんな豪華なマンションに住めて、再来月の更新料を払う必要もこれでなくなると思えばいいのかもしれない。
「う、うふふ」
ワタシも一応作り笑いをしてみる。
「千寿先生も何か狭山さんに質問されたいことはありますか?」
そう皆川氏が隣の先生に聞いたけど、年上先生は少し笑ってミナト君がいいなら私は特にありませんよ、と答えた。

「では皆さん、この話は狭山さんにお願いするということでよろしいでしょうか?」
皆川氏の言葉に二人は黙ってうなずいた。

面接……ってこんな簡単でいいわけ?

「あ、ありがとうございます。では皆川さん、詳しい契約に関しては後日お話させていただくとして、今後のことですが引越し作業にはだいたい一週間程度お時間をいただければと思うんですがいかがでしょうか」
絵里は契約が決まって嬉しそうだ。
「ええ、かまいませんよ。では、今日は先に狭山さんのお部屋にご案内しましょうか」
そういって立ち上がったので、ワタシもつられて立ち上がる。
作品名:その扉を開けたら 作家名:ろし子