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エンジェレラ(1)【導き】歴史書・序章

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【歴史書】

 人間<ヒト>とは全く似て真(まこと)には似つかぬ、異なる人種の存在する場所が、この世界にはある。
 人間の世界とは異なる世界があると、信じは想像し、思い描いてはいつの間にか天国=楽園<パラダイス>と云うイメージを定着させた人々は、別の世界をこう呼んだ。
『異世界、と……』

 実のところ。
 人間<ヒト>から云うと『異世界』──正確には人間の世界ではない、別の世界の集合体である次元(人間の世界以外の全ての世界の在りし空間)の事を言うのだが……には、魔界、天界などの多くの異界が存在する。
 魔界や天界などの世界の事を別称、異界と呼び、それらの異界をひっくるめて呼んだ、または異界全てが存在する世界が異世界である。
 異世界は人間の世界を中心、全界(人間の世界を含めた全世界自体の意)の柱として地理的、存在的にも位置しており、全界自体は一つの世界としても機能している。
 人間の世界にも国名がある様に、異界にも異界名と同じ意、効力を発する国名が存在した。


 異界の中でも有数の力、存在力、政治力など全てに於いて最強に等しい代表的各が、魔界・天魔(てんま)国と天界・地神(ちしん)国である。
 魔界・天魔国と天界・地神国は、互いに互いを相当の敵視化しており、日々争いは勿論、侵略、支配下、捕虜化は絶えず止むことなく続いていた(侵略、捕虜化は主に魔界・天魔国だが)。
 異界の中で唯一、人間の世界と行き来が出来るのもこの二つの国だけであり、人間の世界を己の物にしようと、もくろんで止まぬ魔界・天魔国に、そうは為せまいと、天界・地神国は相当の注意と犠牲を払ってまで対抗、守護をしていた。
 人間の世界の住人は、異世界には悪魔と天使が存在すると、噂した──

 天界は『神界(しんかい)』とも呼ばれ、第16代神王(しんおう)・ゼフィールの下、計七つの階級(俗に云う部署)が置かれている。
 その階級のトップの『神王(しんおう)閣下』と呼ばれる者が各階級の指揮を任されていた。
 その階級とは、地位順に王宮位(おうきゅうい(神王・皇族の守護警備、国の政治関係担当)・文易位(ぶんえきい(大戦時の策、天界の学問関係担当)・魔法位(まほうい(魔法の会得、使用など魔法関係担当)・守護位(しゅごい(国内外の守護警備、治安担当)・領易位(りょうえきい(国内の全ての土地の管理、異国との貿易・国交担当)・法務位(ほうむい)・監査位(かんさい)。
 以上の七階級だが、法務位と監査位は王宮位・文易位・魔法位の者にしか知らされず、それ以下の階級と住人には存在自体も、一切知る者は居ない。
 ──謎と闇に包まれた二つの階級……その全ては一切不明である。


 異世界には複数の世界があり、それぞれに絶大な指導力を手にする者、王が居た。天魔国の王である魔王と地神国の神王は、世界の理である闇と光を象徴する存在として、国民は勿論、各国の者達から崇められてきた。
 初代魔王のフェレナ、初代神王のアネレス。二人は世界の創世者とも呼ばれ、彼らの亡き後、二千年経った現在でも、その意志は強く引き継がれている。
 西暦の次元に突入し、進化ではなく衰退を辿りつつある地球の裏で、異界は闇に紛れる様に佇んでいた。

 初代の神王が亡くなった後は、彼の弟のシャルーンが第二代神王として就任する。その百年後、シャルーンは文易位・神王閣下のハルに地位を譲り、誰にも看取られる事なく消滅した。そのハルは、神界歴380年に起きた異界大戦で命を落とし、彼女の後は王左のラキアスが継ぐ。

 時は進み、神界歴1940年。第15代神王ゼマンダが亡くなり、初代神王のお告げにより当時10才であったゼフィールが神王の座を手にする。
 皇族とはいえ、肉体の寿命が存在しない天界では生まれたばかりの赤子に等しい少年が神王の座に就くことを反対し、それによって第一次国内大戦が勃発。

 神王の座に就いて間もないゼフィールは、得意の策略を大々的に展開して着々と賛成派を集めていき、実際の攻防戦を展開させる事なく国内大戦を終結させた。その後は神王として国を治め、暫くの平穏な時が過ぎていく……。




【序章:全ての始まり】

 国内大戦から時は流れ、天界はこれまでの歴史の中では珍しく平穏に満ち溢れていた。
 一般の階級の天使の部屋に比べ、数々の豪華な装飾の洋室。黒革のソファーに背中を預けて、ゼフィールは書類に目を通していた。
 このまま何事も起きなければ良いと、王として国の平穏を祈る。
 ガラスのテーブル一面に広がる書類の束に、些か眉をひそめた。
 腰の位置で揺れる、鮮やかな金髪のストレート。中央で分けた前髪から覗く、神王に代々受け継がれるシルバーの額飾り。
 絹で仕立てられ、貴族特有の宝石による装飾のない衣服は、ゼフィールの謙虚な性格を表していた。
 くるぶしまでの長さで、形はワンピースに近い。鎖骨を見せ肩から身を覆い、袖幅に余裕を持たせた。手首の箇所にはゴムを入れ、フィットするようになっている。
 腰部分は絞られ、上半身の両サイドには編み上げ。臍の位置からに真っ直ぐに入ったスリットからは、白色のスラックス、茶色のショートブーツが見える。
 閲覧した書類に『Zefeel』と刻印された、手のひら程のスタンプを赤色で次々に押印していく。
 平穏な天魔国で、普段通りの国務を行うゼフィールの日常は、爆音と共に破壊された部屋の扉と同時に終了した。
「いったい、何事ですか!」
 平穏な筈の国内で、更に神王の部屋の中で、果ては器物破損に声を荒げる。上がる硝煙に、無防備にも入口に近付く訳にはいかなかった。
 遠目から見て、判断出来るもの。無惨に散らばった扉の残骸に、モクモクと上がる煙。
 人間界であれば消火器という手段があるが、天界では存在しない。“火”という要素を魔法で消失させる。
 火の構成物質である火事には、対処できても、煙に対しては魔法対象の要素がなく、対処ができない。
 よって、人為的による扉の修繕作業が必要になる。
 天界では、人間界と同じように国家予算が存在し、費用が発生する。
 有能なのに天界一の節約家で有名な己の秘書に、どれだけどやされるのかと、ゼフィールは頭を抱えたくなった。

 神王の部屋からの爆音に気付いた、王宮位(おうきゅうい)の階級<部署>。
 すぐさま王宮位トップ神王閣下で、ゼフィールの秘書である、ルーマスを神王の部屋に駆け付けさせた。
 王宮位は、神王の部屋に別れる廊下への分岐の側に構えてある。王宮位から全力疾走すれば、距離は十を数える間もなく辿り着く。
 ルーマスは天界の中では若い世代で、人間で言えば就職活動中の大学生に近かった。
 ゼフィールが生まれたばかりの頃。ルーマスの世代は、天界での就職活動の真っ只中。
 ルーマスの両親は、魔界との境界線にある危険地域・アンダーグラウンド出身。アンダーグラウンド出身者は、最下級階層でもある。
 最下級階層は、どんなに能力があろうとも、一般人の就く公的な職には大部分の者が許されなかった。国の政治の勝手が分からない、初代神王の残した奴隷制度の名残だ。
 いくら望んでも、欲しい身分は手に入りはしない。奴隷制度の名残も消えはしない。