【勾玉遊戯】one of A pair
私どもの子供達を、救済けてやりたいのですが、方法がわかりません。 両親にしてみれば、大真面目な言葉だったはずだ。そうでなければ噂話を頼りに、宗派の違う神社の、歳若い神主などに頭を下げはしなかっただろう。それ故、柚真人は先日もこの屋敷を訪れた。その時は――どうということもなかったのだが……やはり奇遇は奇遇。
両親の案内で、柚真人はその――自殺したという、妹の部屋の扉を開けた。
彼女の部屋は六畳の洋間だった。
床はフローリング。ベッド、机、本棚、クロゼット。ストライプ模様のカーテン。
ベランダに面した窓から射す、秋の名残の陽光が暖かく部屋を満たしている。
何の変哲もない、少女の部屋だ。
柚真人の背後で、両親が怯えたように息を殺した。
彼等はこの部屋で――頸を吊って死んでいた愛娘の死体を発見したのだ。兄の火葬が済んだ直後だったという。
「お寺の方から頂いたというのは、お守りですか? それとも、札のような物?」
柚真人の問いに、両親は虚を衝かれた様子だったが、父親の方が素早く言った。
「札と思います。机の上に……」
言われて見てみると、なるほど何やら奇妙な字を描いた紙が、勉強机の上にのっていた。
「お兄様の部屋にも?」
「はい」
梵字は真言宗。どうやら簡単な魔除け札のようであった。
――そういうこと――か。
これが結界たりうる限り、彼女は屋敷の敷地にさえ立ち入ることができないだろう。
そうして、柚真人は軽く、目を伏せた。
――では、何があった?
――その日、ここで何があった?
それはフラッシュバックのように、断片的な映像となって、柚真人の脳裏に描かれる。
想いの残滓と記憶の名残。
――少女と青年がいた。
兄妹だ。
それは真新しい仏壇に飾られた、遺影の中の笑顔の持ち主。
柚真人は、その飛び散った記憶の破片を拾い集めるように、脳裏の奥で意識を凝らした。
これは恐らくこの部屋で、首を括った少女の命が尽きるとき、弾けてしまった――彼女の、想い――。
白昼の夢のように、それは閃く。
カナシイ。安堵。
ツメタイ。安心。
凶暴なまでの――絶望。
兄の笑顔。
妹の泣顔。
水の感触、水の感触、水の感触――。
「……どうかしました?」
母親の声が不意に、遠くで聞こえた。
――これは……?
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙