【勾玉遊戯】one of A pair
形のよい唇をくっと歪めたそれは、笑みではなく――何かを見透かしている、そんな表情ではなかったか――。
「時間があるなら、中へどうぞ。寒くなってきましたしね。……よろしければ、ですが?」
何でもないことのように、彼が言う。
中へ、というのは、神社の背後に見て取れる屋敷のことを示しているらしい。
たじろぐ湖珠を、促すように――くん、と少年が首を傾げる。
「どうぞ。こちらに」
それはお世辞にも優しいとかあどけないとかいえない顔だった。何処か傲然としていて、皮肉げにさえ、見えた。
――何なの……この、子……。
けれども、その少年のその表情は、文句なく完璧に、最もその、姿形に似つかわしく、ぞっとするほど。
蠱惑的――だったのだ。
少年は、皇柚真人と名乗った。
歳は十七。高校一年生なのだそうだ。
湖珠が通されたのは、広い座敷だった。おそらく少年の家なのであろうその屋敷は神社の裏手にあって、木造平屋建てのようであったが、玄関からして無駄に広いとしか思えず、総じてどれくらい広いのかといったら見当もつかないほどであった。その上、屋敷自体もえらく古い。柱も廊下の床板もすっかり磨かれて滑らかな黒い色を呈しており、それがそこここの照明の光を吸い込んで廊下は暗く、陰鬱だった。
夕暮れ時にしては冷え冷えとしていたし、しんと静かだ。
座敷で座布団を勧められ、少女は腰を下ろした。
名前以外、少年は何も語らない。その年齢で神主というのが奇妙だが、それより何より、向かい合って部屋の明りの下で見ても、少年は間違いなく桁違いに綺麗なのに驚嘆した。
透明な氷のように。冴える月光みたいに。
湖珠は、少年に見惚れている自分を意識しながら、探して欲しい物があると告げた。
「……いいですよ」
微笑んで、少年が即座に頷いたので驚いた。
「なくしたものは何ですか? 大切な物、なんでしょうね」
少年は、湖珠の向いに端座した儘、訊いた。
「大丈夫ですよ。見つけられると思います。それが……貴方の願いならね」
不思議な物言いだった。
耳飾……――と、湖珠は言った。
その時。
「おや。お客様ですか」
廊下から第三者の声がしたので、湖珠はびっくりして振り向いた。開け放たれた襖のところにいたのは、背の高い眼鏡の青年だった。
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙