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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】one of A pair

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 ――こいつ、酔ってる……のか?
 柚真人は、瞳を閉じた司の傍ら憮然として眉間に皺をよせた。
 ちょっと目を放した隙なのに、銚子は本当に見事に空になってしまっていた。
 なんということだろう。
 だけれど、そうでもなければ司がこんなふうに柔らかい表情をみせることはあまりないのだった。
 それは――柚真人が滅多に司に優しい顔を見せないからだ。
 できるなら優しくしたいと思う。
 けれど、司の穏やかな笑顔を見ることさえつらかったし、優しくすることもつらかった。
 「兄」と呼ばれることも、頼られることも、甘えられることも――
 兄妹だと思い知らされることがつらかったのだ。だから柚真人は妹に優しくできない。
 当然仲の良い兄妹ではない。
 悪循環だがそれが崩れ去ってしまうことを柚真人は恐れた。優しくしたら――優しくされたら、坂道を転がり落ちるように何も彼もが駄目になってしまいそうな気がした。
 ――まったく。どうしようもないんだな……。
 その仄かな体温を感じながら、柚真人は泣きたい気持ちになるのだ。
 ――どうして。お前はおれの妹なんだ。どうして。
 ――どうしておれは……。
 皇柚真人は、古い神社の当主として生まれ育った。皇家はその裏神事を伝える旧家であり、現在でいうところの富豪である。金は、望むと望まざるとに拘らず入るところからはいってくる。その上、常人離れした類い稀なる美貌と人形のように均整のとれた肢体をも持ち合わせている。その唇に浮かべる微笑みひとつで人の心を繰ることさえも柚真人にとっては容易なこと。
 金銭的な苦労などしようもなかったし、将来など考えるまでもなく、一族本家は当主の座が用意されていた。身の上は自由で、用意されていた動く歩道に乗ってしまえば何ひとつとして不自由などない――はずだった。
 だが今は。
 それら全てを引き換えに捨てたって、手には入らないものを欲している。
 耳元で聞こえる規則正しい吐息が、柚真人を狂わせる。
 苦しくて、目を細める。
 柚真人の首筋にふわりと、柔らかい少女の髪が触れる。
 しゅるり――と、衣擦れの音。
 少年は、歯をくいしばる。
 腰のあたりから駆け上がる熱。背中がぞくぞくした。
 視線を下ろすと、のけぞった頸がみえて、あらぬ光景が一瞬脳裏を駆け巡る。