【勾玉遊戯】one of A pair
とができるなら――それを羨望さえした。柚真人は、だから今日、あの女の願いを聞き届けてやったのだった。兄妹が互いに恋に落ちたとて、何が罪であろうか。それに命をさえ賭したなら、静かに 誰にも知られずにふたりで逝かせてやったところで何が悪かろう。
――こらえろ。
だが、自分には――。
この想いには辿りつく場所がない。
――司には――悟られるな。気づかせるわけには、いかないんだ……っ。
妹を。
――こらえろ……っ。
妹として見ることができないなんて。
それなのに、こんな時にかぎって気紛れな妹が――滅多なことで兄に甘い顔を見せない彼女が、甘えたしぐさを見せる。それに胸が潰れそうだった。
「ふあ―――――っ」
頬に朱を上らせて、司は吐息を吐く。酒に触れた唇が、艶やかに濡れている。
満たされた杯が、すい、と目の前に差し出された。
「はい。どうもありがとう、おにーちゃん」
「ああ、もういいの?」
「うん。それ、最後の一杯になっちゃった」
「は――」
柚真人は、無表情を装いながら司の手にした杯を受け取って呷った。鋭い酒精が鼻啌をつく。
風が流れると、さらさらと凍えた氷の破片が雪の上を転がる音が響いた。
竹薮の笹葉の音かもしれない。
「寒いけど、きもちいいよね」
司は言う。
「柚真人のこと、いま酔狂だっていったけど、酔狂もわりと風流かも」
「――風流、ねえ」
「空気が冷たいー」
くすくすと司が笑う。
そうして、妹はとすんと柚真人の肩に体重を預けてきた。背中の肌を感じる。
どきり、とした。
甘く、胸が痛む。
「子供みたいにあったかいよね。柚真人って」
くすくす。
なんて無防備。なんて無頓着。
腹立たしいくらいに。
その白い首筋。
着物のあわせからのぞくわずかに上気した胸元。
膝にのせられた、手。
裾から見える――すらりと滑らかな、足。
脳が蕩けそうだ。
そうして司はというと、夢を見るように、目を閉じてしまう。
「おい、こら。風邪ひくぞ。部屋に帰って寝なさい」
「んぅん」
そんな溜め息。
何も彼もかなぐり捨てたくなる。
――駄目だっ。
震える声で、兄は紡ぐ。
「司ってば。部屋に戻りなさい」
「うん。でも柚真人も一緒に戻んないと。柚真人も……風邪をひくよぅ」
そんなことをいって、司は、また、はふ、と白い息を吐く。
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙