【勾玉遊戯】one of A pair
いま、ほんの少しでも少年の鋼の理性が負ければ、この手は暴走を始めるだろう。
司の、優しい体温。それは自分のものより少し高い。
衣越しに伝わるたったそれだけのことで、頭の芯がくらくらした。安らかな寝息を聞いているだけなのに、残酷な――ひどく残酷な妄想が廻りだして止まらない。
自分では止めることができない。
悲しくなる。
この想いが――罪だとか、汚れたものだなんて、思いたくない。
悔しくなる。
―――けれど。
少年の指は、妄想の中で妹を犯していく。滑らかな肌に触れ、艶やかな髪を梳く。細い腰を抱きよせる。なりふりかまわず、あらがう腕をおさえつけ。泣いても。叫んでも。
「く……っ」
吐き出す喘ぎは、苦しい。邪な想いに自分がずるずると溺れていく。
「は……っ」
触れ合う肌から伝わり、重なりあう鼓動と鼓動。
こんなにそばにいるのに、ふたりをへだてる血の絆は、なんて遠い。指先さえ触れられない。だから少年は、凍りついたように動けない。きつく目を瞑り、少年はその身を呪縛する妄想を捩じ伏せる。
――きっと。
命を賭けたって、振り向いてくれることはない、妹。
命を絶ったとて、成就することなどありえない、恋。
だから。
柚真人は、眠りに落ちた演技で、ゆっくりと傾ぐ。
縺れ合って倒れ、少女は目を覚ますだろう。そしてふたりは別々の部屋へ帰るのだ。
永遠に変わることなき、その血の絆。
それでも、少年は――ほんの刹那。
少女とふたり、褥にくずおれる、夢を見る。
――人には告げられぬ夢を――見る。
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙