【勾玉遊戯】one of A pair
ACT,7
夕方になって雪は小康状態になり、夜中になると空は晴れた。
透明に澄んだ冷気が、夜を満たしている。
柚真人は、居間の縁側で杯を傾けていた。
暖房は止め、窓は開け放ってある。部屋は暗く、少年の纏う白い着物が、雪明かりをうけて、ほの白く浮き上がって見えた。
冬の入り、夜の空気は冷たく凍えていた。
晴れているぶんなおさら夜気は冷える。空は遠かった。
白い陶器の杯に口を接ける。
――苦い、な。
それでも寒くはなかった。まだ十一月だから、夜半には気温も上がりはじめ、明日にはすべてとけて流れていくだろう。
――ふん――。
そして再び杯を口許へ運ぶ――。
と、そのとき。
「何してるのかと思ったら……。こんな夜中に、酔狂なことするよねえ兄貴も」
司――だった。
柚真人の心臓が、凍える。
「たいがいにしなよ、未成年」
少女もやはり、少年のように丈の短い着物を寝間着として身に纏っている。
多少時代錯誤な寝間着とも思えたが、それが幼い頃からの習慣だ。
ああ、ああ、などと呆れたような声を上げながら、司は柚真人のそばにやってきて、傍らに腰を下ろす。
「うわ、さむ。……なんか寝つかれなかったのよね。それ、もらってもいい?」
「それって……これ、酒だぞ。日本酒」
「だからちょうだいってゆってるの。何?」
銘柄のことだろうか。
「『上善』。おい、ちょっときついぞ」
「平気へーき!」
司は、柚真人の手からするりと杯を奪い取って口に運んだ。
「……司……」
たぶん。妹にとってはなんでもないことなのだろう。けれど――畳のい草の匂がした。そして暖められた酒の香。夜の空気。青白い雪の色。
そして、司の――。
――ああ。
冷えた板張りの縁に置いた自身の手の、指先がこらえきれずにぴくりと震えた。
「ん―――――っ」
司が、はあっ、と息を吐くと白い霧が闇に溶けていった。
☆
「柚真人、寒くないの? 雪積もってるのに。すごい薄着だけど」
司は、ときどき少年を今のように名前で呼んだ。少年は、兄と呼ばれるよりも妹に名を呼ばれることのほうが好きだった。けれど、こんなときにそんなふうに呼ばれると、胸が軋む。
――こらえろ。
そう、自らに命じる。少しでも気を抜けば、いまにも――理性を失いそうだった。
そう。お互いに想いをよせあうこ
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙