【勾玉遊戯】one of A pair
「髪の毛や、皮脂、指紋はともかく、そのハウスキーパーは、その日、側溝に異物がないことを確認しているときた。あの日、入浴したのは、その長男だけってことになってる。次に覆いを取って掃除したときそれがまだそこにあったら、さあどうなる?」
「それが、間接証拠に――」
「ご明察」
「そうですね。それがいつからそこに在って、いつまでそこには無かったのか――もしそれが明らかになれば、それが間接事実を立証しえますから……」
優麻の口調は弁護士のそれだ。
間接事実――それは捜査の端緒となる。犯罪事実が、明らかになり得る手掛かりとなる。
「あなたは、……彼女の犯行を、隠したかった……わけですね」
「彼女は、完全犯罪を実行したつもりだったろうからね。奇遇――二重の奇遇に免じて」
「それで、あなたらしいと……」
正しく奇遇は二重であった、優麻はそれを知るからこそ咎める言葉など出てこない。
犯行事実を明らかにして、彼女の少々無鉄砲な計画を台無しにするなど、いまの彼にできるはずがないのだった。
「しかし、そう立て続けであれば、自殺は性急すぎたのではないですかね? まるで追死ですよ」
「実際、追いかけたんだ。……まさに死人に口無し。よく心得てる」
「それこそ、誰かが疑いませんか」
「……死は伝染する。連鎖反応を起こす。理由があれば簡単にね。だから本来、死は忌み嫌われるべきものなんだ。穢れとされる。ほら、塩撒いたり、斎戒したりするだろ。それってそういう伝染性を断ち切ろうとする行動なわけよ。そういうことになっているから誰もが死を伝染病みたいに思い込む。疑わないさ。ややもすると、妹の死は先に死んだ者が呼び込んだと考える。こういう連鎖は、先に死んだ者が悪いことになるんだよ、大抵。実際、家族も霊障は専ら兄の方がもたらしていると考えていたし。妹さんについちゃ、兄が呼んだのだ、可哀そうだ―――とまでいっていたよ」
「ですが……」
「もう一つある。彼女はね、彼女自身の自殺の理由をもきちんと容易していたんだ。まったく上手くやったよ。おれが家族から話を聞いたときもね、子供をいっぺんに亡くしてえらいうちひしがれてたけど、皆それで納得していた……当たり前だけどね」
少年は肩を竦めた。
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙