【勾玉遊戯】one of A pair
「彼女が探している耳飾、というのもそれだとわかったよ。だがそこで、だ。
問題が生じたのは。湖珠の犯行は完璧だった。半分はそんなわけで尚清の方にも死を選ぶ秘密の理由があったからさ。完璧事故死体だし、肢体にも不審な点はなかったろう。ところがさ、篠崎家はハウスキーパーを雇っていてなあ……。そのハウスキーパー、婚約披露の当日も、夜には屋敷に大勢客が来るってんで風呂から御不浄までしっかり清掃を行ったってんだな」
「そんなこと、わざわざ訊いたんですか?」
「違う違う。だらだらとさ、ご両親が説明してくれるわけ。ほら、死んだ場所だからね。意味もなく脅迫観念にかられて因果関係を作り上げるだろう。その日掃除しなかったら、事故が起きなかったんじゃないか、違う結果になったんじゃないかって。それでいて、それが原因じゃないんだって、一生懸命弁解するんだよな。誰だってそうだろ。例えば、あのとき左の角を曲がっていたら――とか。右側の歩道を歩いていればあるいは何かが変わっていたかも――なんてね」
「……ああ、なるほど」
仮定的因果経過――優麻は、そんな言葉を憶い出していた。
仮にそれがなかったとしても、結局違う原因によって、同一の結果は生じる――というやつだ。けれどそれはつまるところ仮定の条件関係で、生じてしまった結果に対する原因の因果関係は否定するには足りない。けれど、因果関係を否定されると説かれることもある。柚真人の謂わんとしていることは、それに似ている。
――あれがなければこれはなかった。
――否。あれがなくても結局こうなるしかなかった。
人の心が生む、せめぎあい。
本当は、生じてしまった結果からせめて目を逸らしたいのだ。
人は、そのための理由を探す。そして仮定的な条件を見出だしてそれに安堵する。
だから思う。
――ああしなければよかった。何かが変わっていたはずだ。
そして思う。
――いや、結局こうなるんだ。何も変わらなかった。自分に非は無い筈だ。
「ま、その時たくさん来客があるってんで念の為風呂場の側溝も掃除されたわけだよ。側溝って普通ステンレス製の覆いがしてあるだろ。あれ、外してさ。だからね……」
「……ああ!」
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙