【勾玉遊戯】one of A pair
「そう、彼女は自殺の理由を作るために男と付き合い、喧嘩し、争い、わかれた。友達や知り合い、人の目のつくところで派手にやったのさ。死後、他人を納得させるためにね」
「そんなことを……」
「誰も疑わないんだよ。普通に仲の良かった兄と妹の間に、何があったか、何かあったんじゃないか、なんてことはね。婚約者のいる兄。恋人のいる妹。普通の家族が何を疑う?」
「ああ……そう。……そうですね」
ふ、と優麻は肩を下ろした。
――それで。
少年は窓の外を見ている。
――『おれらしい』、と。いうのだ、この人は。
「だからおれは彼女に耳飾を返してやった。犯人だって死んでるし、犯罪事実がどこの捜査機関に明らかになったわけでもない。証拠は必要ないだろ?」
「それは、そうですね。あなたの片面的従犯でさえ私たちからすれば立証できないんでしょう」
柚真人は満足気に頷いた。
そして静かに言を継ぐ。
「それに、彼――兄の方もね……。たいして抵抗しなかった。たぶん、彼女を待っている。昇天ってくる妹をね。妹の想いを知っていた。……命を絶つことでしか、報われない恋だったんだ。だからね。彼女の願い……叶えたいと思ってね」
☆
そのときだ。
「兄貴?」
からりと襖の開く音がして、庭の見渡せる応接間に、少女が顔を、出した。
「……」
一瞬 ほんの一瞬、息を飲んでしまったのは優麻の不覚と言えよう。それは、彼の妹だったから。
一方の柚真人は、たったいま優麻と交わしていた会話のことなど初めからなかったかのような素振りで、ひとつ違いの妹を振り返った。
「どうした? 司」
「……あたしに内緒で、何のお話?」
「いえ、別に。どうです? お勉強、すすんでますか」
「おかげさまで」
見れば、司はトレーにケーキを載せていた。
「お茶にしようと思ったんだけど?」
「ああ、ではそうしましょうか」
優麻は、そう言って立ち上がった。
「お茶を淹れ直しましょう。紅茶にしましょうか? それ、チーズケーキですか?」
「うん、昨日買っておいたの。通りの角のケーキ屋さんのベイクドチーズ」
「わかりました」
優麻は――柚真人に小さな笑みを返し、そして部屋を出た。
――おれらしいんだよ。命を絶つことでしか、報われない恋だったんだ。
優麻の耳奥に、切なく響いた少年の声が残った。
「雪」
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙