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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】one of A pair

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「それで証拠が耳飾だけですか? でも風呂場といえば入浴する場所ですから、指紋の付着やなにかが防げないでしょう。手袋なんてしていたらそれこそ変ですし……」
「浴室に存在しないはずの物証、例えば衣服の細かい繊維等をどう処分するか……って?」
「ええ。他にも証拠は残るでしょう。圧迫痕、防御創、爪の間の皮脂……髪……。いくら酔っていたとしてもね……それに、浴室に誘われるというのも……」 
 優麻は首を傾げている。煙草の灰を灰皿に落とし。
「第一、犯行を実行しようとしたって、そもそも着衣の儘に侵入してきたら、もうそれだけで怪しいですよ? まあ……それでも、君にはことの真相が見えているのでしょうけれどね」
 だからこその言葉であることを、柚真人とも幼い頃から付き合いある優麻は、知っている。この少年は人の目には見えないところからでも真実を探り出すことができるのだから。
 しかし、殺人を肯定しながら証拠湮滅を図るなど、少年らしからぬ行動だと、思う。
 すると少年は再び言葉を継いだ。
「証拠ってのは、そこあるのが不自然だからこそ証拠になり得るものだろ」
「まあそうですけど」
「だからさ。まずそもそもそれが異常なことでなければ誰の目にも留まらないだろ。埋もれてしまうから、拾い上げることができなくなる」
「そうですか?」
「そうだ」
 少年は言い切る。
「お前、弁護士だろう? おれの話、ちゃんと聞いてるか?」
 ふ、と唇に笑みを刷いて。
「彼女が妹だからだろ」
 冷たい色の瞳が、優麻を見る。
「彼の妹だったら、まず余計な証拠なんか残りっこないじゃねえか。抵抗もな。妹だって服なんかきちゃいない、二人は一緒に風呂に入ったんだよ。『そう』いう目的で」
「は……?」


 その日。
 妹は酔った兄を誘う。
 二人が。
 互いに道を踏み外した恋に墜ち、互いに自らの気持ちに背こうと必死であったならどうだろう。男の婚約も、そう、汚れた恋から逃れるためであったなら。
 そして妹が兄のようでなく、自分の恋にただ正直であったなら。
 泥酔して正気を失った男が、ふらふらと女の誘いにのる光景を少年は視たのだ。
 ――これで最後にするから。お兄ちゃん。
 そう懇願されて、彼は拒めなかった。
 そして理性も知性も瓦解する。
 心は禁忌を意識しながら、躯は妹を索める。