【勾玉遊戯】one of A pair
「けれど君は証拠を湮滅した。……めずらしいことですね。柚真人君、いつもは生きてようと死んでようと他人には厳しいですもんね」
「自分にだって厳しいつもりだよ」
「冷酷無比な皇流当主――皇柚真人君らしくない、とは思いますが」
「いいや。――おれらしいんだよ」
呆れたような口調で言う年上の友人に、神主はそう返した。
☆
柚真人にとっても、それは意外な答えではあったのだ。
最初に訪れた時には、もう僧侶が施したらしい某かの呪いで、家の中はおろか屋敷の敷地の何処にも、死者の気配など遺されてはいなかった。
わかったことといえば兄の事故死と妹の自殺。
しかも家族は、当然一介の、それも幼いともいえる少年神主を相当にうさん臭げに思っていたらしく、その日は仏間以外への立ち入りを、許されなかった。
それで、どうしたものかと思案していたところに、ふらりとあらわれた女――それが、あの日、夕暮れ逢魔が時に柚真人の下に訪れた、篠崎湖珠だったのである。
――結婚も決まっていたのに。どんなに無念だったでしょう。
――妹まで、連れて行くなんて……。
当然と言えば当然のことなのだが、家族には、分からなかったらしい。
その家で騒いでいたのが死んだ息子ではなく、娘だと。
柚真人は、二度目に篠崎家を訪れて真実を知り、三度目で彼女が探していたものを見つけた。風呂場の側溝に落ちていた、銀の耳飾を見つけたのである。
それは証拠品となるべきモノだった。
その風呂場で殺人が行われたことの。
女はその日。
酒に酔った男を。
浴室に沈めた。
そして現場に耳飾が残った。
――それが、柚真人の視た真実――。
「それでは兄の尚清は、妹の湖珠に殺害されたということですか?」
「そういうことだな」
「でも……」
「その、十一月二日っていうこはな、尚清の誕生日で、なんと婚約披露の日だったわけだ。つまり、その日は沢山の親類縁者が集まっていた。篠崎家は屋敷も広いしそこそこ由緒ある家柄で親族も多い。夜ともなりゃあ大宴会ってわけだ」
「……」
女は、酔った男を浴槽に沈めた。証拠は残らない。
「……そうでしょうか?」
「それが彼女にとって一番確実だったんだよ」
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙