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自転車系青春小説 -チャリ校生-

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 ――僕は、自他共に認めるオタクだ。見た目だって太ってるし、眼鏡だし、いかにもな雰囲気をかもし出してると思う。別に狙ったわけじゃなくて、自然にそうなった感じ。見た目でもう「オタク」扱いされてるんだから、開き直ってオタクとして学校でも過ごしてる。そんな僕のキャラが受けたのか知らないけど男子達からはいじられキャラとして定着しちゃってる。けどまあ、女子からは当然と言うか、「えーきんもー」みたいな態度をとられてしまうわけだね。だから僕も、なるべく女子とは距離を置いて生活していたんだ。そんなわけで、恋愛とか全然経験もない。年齢がそのまま彼女いない歴になるわけだよ。どうかな、すごいかな。大体僕はこんな人間です。
 一方の彼女は、クラスでも美人だってひそかに男子達に噂されているほど。そのくせ優しい。髪も染めてなくて、前髪パッツンだけど妙に合っていて、そうそう見た目じゃなくて声も良い声してるんだ。
 そんな彼女の名前は「ミコ」っていうんだ。まさしく巫女服が似合いそう。
 ミコとは僕のカードを拾ってくれてから妙に距離が近づいた気がした。そう、ミコが頻繁に何かと話しかけてくるようになったんだ。朝教室に入ったら「おはよう」と言ってくれたり、廊下ですれ違うときもちょっと微笑んでくれたり。教室の席はさほど近くはなかったけどね。それが残念かな。
 で、決定的に響いたのが……、
 「こないだのカードのアニメの話、詳しく聴きたいな、なんて。ちょっと可愛いキャラクターだなって思っただけだよ?」
 って、いかにも興味津々な様子で話しかけてきたことだ。僕はもう、得意分野というか、僕の本領発揮だ、という感じでそのときはもう浮かれて調子乗ってガンガン熱く語ってしまったけど、彼女は偽りじゃない、演技でもない、心の底から興味を持ったみたいで、僕は嬉しかった。その日から僕も彼女に、アニメやゲームの話をよくするようになった。特にやっぱりあのカードのキャラに興味を持ったようでその話をよくした。
 そして今も、放課後なのに僕ら二人は残って、ただ話をしていた。 
 「ふーん……。こういうアニメなんだ。」
 隣に座っている彼女が言った。僕らは昇降口の目の前の、木製のテーブルや椅子が置いてある、ちょっとしたくつろぎスペースにいた。僕らが通う高校は、屋上が解放されていたり、こういったくつろぎスペースが用意されていたりと、比較的ゆとりを持たせてくれる高校だと思う。
 このくつろぎスペースは広い廊下に面している。今も一人の男子が走っていった。レポートの提出に何とか間に合わせようとしているのだろうかな。
 たまに歩いてくる女子の団体が、僕らの事を不思議なものを見るような目で見てくる。まあ僕と彼女は、見た目だけならとんでもなく釣りあわないのかもしれない。でもそれは見た目だけだ。
 「ねえ、この娘、なんていうキャラクターなの?」
 彼女が僕に質問をしてきたようだ。彼女が指差すのは僕らが仲良くなったキッカケである、あのカードに描かれている、主人公の可愛らしいキャラクターだ。この娘の話はもう何度もしてきたのだが、彼女はその話を何度も聴きたいらしく、しつこく訊いてくるのだ。でも僕もその娘は好きなキャラクターだから別に問題はない。僕はどちらかといえば、その娘の声を担当している声優さんの方が好きだ。このアニメでこの声優さんの魅力に気づいてしまったのさ。あの透き通るような声は、僕の好みとピッタリだ。
 そういえば、彼女の声も似たような感じがする。属性というか、共通点があるような。
 「またですか?ええとこの娘はね……。」
 僕ははにかんで、話をしてあげる。彼女が望むなら、何度でも話をするんだ。
 ひとしきり話をした後、僕は喋り疲れて、彼女は聴き疲れたのか、しばらくお互いに黙っていた。さきほど走っていった男子が今度は帰ってきた。どうやらレポートは間に合ったらしい。僕らもそろそろ帰る時間かな。
 「私達もそろそろ帰ろうか?」
 彼女が言った。心でも読んだのかと思ってびっくりした。
 「あぁ、うん。そうですね。帰りましょうか。」
 ちなみに僕が敬語なのは特に意味はない。緊張のあまり思わず、といった感じだ。
 僕が席を立って、彼女も立った。放課後の学校というのは、どこか懐かしさがある。懐かしいどころか、現在進行形で学生なのだからおかしいかもしれないが、哀愁を感じる部分があるんだ。
 「熱中できるものがあるって、いいことね。」
 彼女が独り言を言った気がした。空耳かもしれなくて、反応しないことにした。
 彼女と共に、昇降口まで歩いた。目の前なのですぐに着いた。と、昇降口から、女子高生の軍団が入ってきた。正直、僕は彼女達が苦手だ。出来れば話したくも、目もあわせたくはない。彼女達が僕に向ける視線言動その他全てが僕を否定しているようで嫌だ。教室という同じ空間でも彼女達と僕とはまるで違う空気を吸っているような気分だった。
 そんな彼女達を僕は避けようとしたのだが、彼女達が集団で話に夢中で、しばらく僕らの存在に気づかずにこちらに近づいてしまった。
 「あっ、ミスマッチ夫婦じゃん!」
 気づかれた……。
 彼女達に見つかったら僕は耐えるしかなかった。彼女達の僕に対する言葉は容赦ない。
 「うええ、汗、滲んでますよ!」
 「うげえ、ガチでー?」
 僕は彼女達の気まぐれな絡みに、どうしていいかわからずただ耐えるしかできない。僕みたいな人は、勇気がない、度胸がない、根性がないんだ。いつまでも続くこの絡みを止めるのは、ミコだ。
 「ちょっと、やめなよ!」
 思い返せば、いつもそうだ。ミコが止めに入ってくれているから、僕は彼女達から逃れることが出来ていた。
 「しょーがないなあー。行こっ。」
 彼女達は、ミコが言うととりあえずは止めてくれる。ミコの、周りからの信頼は厚かった。それだけに、僕となぜ関わりを持つのか不思議がる人ももちろん、いる。
 「ミコも物好きだよね。」
 彼女達が去り際にそう言った。
 僕は、変わっているのだろうか。周りと、おかしいのだろうか。
 「あ、あの……。」
 僕は、悲しげなミコの顔に、言葉を言いかけた。ミコは、俯きがちな顔を上げて、僕を見た。その表情に僕は、何か大きな責任を感じてしまった。
 僕はこのまま、ミコと親しくしていいのだろうか。このままじゃミコ自身にも、大きな負担を抱えてしまうんじゃないか。迷惑をかけてしまうんじゃないか。と。
 こんなことは何度かあった。でも、ミコがこんな悲しい顔をするのは、はじめて見た。まさかもう、限界なのだろうか。
 ミコのためを思いたい、それならば、もういっそ……。
 言葉が迷って、その後から彼女に語りかけることは出来なかった。
 僕は決めた。明日、僕は彼女に言おう。