小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

自転車系青春小説 -チャリ校生-

INDEX|2ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

2



 ――この高校は自転車通学が許されている。まあ今の時代当然といえば当然なのだが、その自転車を使って、学校でバイトをしている女子高校生がいるらしいという噂。
 高校でその女子校生に行きたい場所を告げれば、自転車の後ろの荷台に乗せてくれてそこまで連れて行ってくれるというものだ。もちろん着いた後で金は取る。さしずめタクシーといったところだ。
 しかもそのタクシー、ただものではない。
 なんでも、恐ろしく速く、広まった噂では自動車よりも速いとか……。
 俺はその人物にちょっと頼みがあって、放課後の今にこうして駐輪場に来ているのだが。おっ、見つけた見つけた。2階建ての駐輪場の1階に彼女はいた。
 チョコ色のセーター、紺色のミニスカート。ほんのり茶色に染まった髪。そして一台の荷台付き自転車。ギアもアシストもないシンプルな自転車。彼女はその自転車のサドルに座って、携帯電話を弄っている。今時の女子高生といった感じだ。もしや彼女が……。
 「あのー、チャリタクシーの人?ですか?」
 俺は自然に近づき、恐る恐る尋ねる。
 「ん。なにそのあだ名。まーた変なのが広まってるのかなあ。」
 彼女は言った。携帯電話からは眼を離さずに。どうやら間違いではないようだ。ならば、俺の頼みを聴いてくれ。
 「なあ、あの、アンタって、頼めば何処へでも連れてってくれるんだろ?」
 俺は彼女に問う。
 「まあね、お金は取りますけど。」
 彼女は携帯電話から眼を離して俺を見て言った。高校生らしい、幼さが残りながらもなかなかの美人だ。これを機にメルアドとかを聞き出しておこうかと、俺の下心が熱く煮えたぎった。
 「あ、ああ、えーとじゃあ、俺の家まで送ってくれないか?ちょっとレポート取りに行かないと。」
 そうとも。今日が提出期限だったレポートを俺はなんということか家に忘れてきてしまったのだ。放課後になったあとでもしばらくは受け付けてくれるらしいからなんとしても早めに提出しておきたかったのだ。
 「ふーん、分かった。で、どこよ?住所は?」
 「あ?いやいいよ、走りながら方向言うかr……」
 「だめだよそれじゃあ。はい住所。言って。」
 なんなんだ。
 「はあ。えっとなあ確か……。」
 俺はため息混じりに住所を告げる。
 彼女はそんな俺の住所を聴いた後、しばらくぼんやり上のほうを見ていた。どうやら考えているようである。何を考えているかは見当もつかない。
 「分かったよ。急ぐんでしょ?ちょっと怖いかもしれないけど、はい乗って!」
 彼女はそういうと自転車に乗って構えた。
 「あいよ。よろしく頼むぜ。」
 俺がそう言って二台に跨った瞬間に、彼女はペダルを強く脚で、踏み込んだ。
 「おうあっ!」
 いきなり走り出す自転車に俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。いやいやいきなりかよ!危ねえし!
 「だって、急いでるんで、しょ!」
 しょ、と同時に彼女がハンドルを左に切った。あれ、いつの間に校門まで?ついさっきまで駐輪場にいたもんだとばかり。俺は慌てて周りを見渡す。
 おいおい……速い。尋常じゃなく。バイクか、スクーターか、まるで大きな下り道を下っているような、とんでもなく景色が早く後ろへ過ぎ去っていく。彼女は、脚で勢いよくペダルを漕いでいる。その様子には男勝りな力さえ感じ取れる。
 俺は自転車をできる限りで見る。アシストは、やっぱりついてないよな……。
 「あ、あんた、すげえ速いな……!」
 俺は自転車を漕ぐ背中に向かって言ったが、
 「舌噛むよ!」
 背中は振り返らずに自転車を漕ぎ続ける。こいつ、何者だ。
 と、そんな背中を眺めていると、いつの間にか川沿いの狭い道に入っていった。この道、すごい狭い。人がすれ違うのにも狭いほどの道を、二人乗りの自転車が猛スピードで走っている。川のほうには軽く膝ぐらいまでの高さの鉄のフェンスがあるのだがそこに当たってしまいそうなほどに狭い。
 「あ、あぶねあぶね!」
 そのうち、左側に木が生えているのが見えた。木から生えている枝が、道まではみ出している。
 「頭下げて!」
 彼女はそう言って頭を下げた。次の瞬間俺の目の前に枝が飛び込んできた。いや、飛び込んできたのは俺たちのほうだが。
 「うおああっ!」
 俺は素早く頭を下げた。髪に少し当たった。もし顔に直撃してたら泣いてたな。安堵した俺だがまだそれでは終わらなかった。
 自転車は道路を横切り、再び狭い道に入っていく。その道はなんと、フェンスがなく、下手したら川に落ちてしまうような道だった。
 しかし彼女は構わず相変わらずの猛スピードで走っていく。後ろに乗ってる俺でさえ怖いのに、彼女には無いのだろうか、恐怖心が。
 もう俺は前は見ていられなかったので左を見た。田んぼだらけの向こう側にコンクリートのちゃんとした道がある。その道の回りには家が立ち並ぶ。
 「いやあっち通れよ!」
 「急いでるんでしょ。こっちのほうが近いんだよ!」
 彼女は相変わらず前を見たまま言った。
 やがて俺たちの進む道はさらに狭くなり、草も深くなってきた。自転車のタイヤは、その草の生えていないわずかな隙間を上手いこと器用に走り抜けていく。
 「プロだな……。」
 俺は呟いた。その動きに素直に感心してしまったからである。
  彼女がここまで危険な走行ができるのも、絶対的な自信があるからだろうなあ、と思った。人を後ろに乗せて、狭い道を駆け抜けて、草を上手いこと避けて、恐怖心を押し殺して。
 そのうちに広い道に出て、交差点を超え、右に左に揺られた。家の前に着いたことが分かったのは揺られた体が落ち着いてからである。
 「ふーん、苗字『田中』っていうんだ。なんだか普通だね。」
 彼女の声で気がついた。なんで俺の苗字を?と辺りを見回せば俺の家が見えたからだ。
 「ん?あ、やべ!すぐ戻るから待っててくれ!」
 俺はそう言って急いで自転車から降りてレポートを取りにいく。
 家の中で足音を壮大に鳴らしながら急いでレポートを探し母親と適当に会話を流し、彼女の元へと走った。
 「はあ、はあ、待たせた。今度は学校まで頼む……。」
 「はいよー。た、な、か、さん。」
 一文字づつ分けて言うなよ……ちょっとドキドキする。
 俺はさっきと同じように荷台に乗りかかって、さっきとは違い、ちゃんと手で荷台を掴んでから体を乗せた。ふっ、どうだ。俺も学ぶのだ。
 「あ、私は『ハヤセ』でいいよ。たなかさん。」
 「は?」
 さっきとは違う言葉をかけられた俺を乗せて、自転車は走り出した。ハヤセというのは、どうやら彼女の呼び名らしい。なるほど、あなたの苗字を知ったから私の名前も教えてプラマイ0みたいな、って感じか。ふむふむ。って……、
 「うわああああっ!」
 あいかわらず速い。