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春雨 03

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 ただひとつ、気になることといえば、めぐみがこちらを睨んでいたこと。俺の昼間のフリー発言のおかげで男どもの態度が明らかに変わっていた。特に森崎なんか、ずっとめぐみの横で喋りっぱなしだった。まだ俺がしゃべったことは聞いていないだろうが。あいつは勘がいいから、きっと気付いていただろう。目線で助けを求められたことも気付いていたが、あえて今日は口を出さなかった。
 後で文句を言われるのは覚悟しておいた方がいいだろうか。
 他にも高梨は相変わらず俺を彼女がいない仲間扱いして、いちいち誰の彼女がどーのと話しかけてくるし、とあるカップルは途中でいなくなるし。
 そういえば、片桐と霧杢も来ていたのを思い出す。あいつらも途中で消えたくちか? 最後にはいなかったような気がする。
 いつもは美智がいて、片桐達と極力近くにならないように気を使ってやるのだが、今日はあいつがいなかったから、変に気を回さずに済んだ。人数が多いと他にもそういう事情が増える。恋愛関係は最たるものだが、友人関係のこじれとか、ほとんど話したことがない奴同士でも単にそりが合わない人間同士もいる。多い人数でそれぞれの事情を考慮していたら、飲み会の席を決めるだけでも案外難しいのだ。
 今日は美智がいなくてよかったと、思う。
 でもそういえば、どうして今日は欠席だったんだ?
 めぐみは知っているような口ぶりだった。彼女に話した事で、俺には報告がなかったんだろう。無断欠席する奴も珍しくはないから、毎回いちいち気にはしていない。
 でも今日は昼間のあの一件があった。香に聞こうと思っていたのに、片桐のせいで聞けなくなってしまったのだ。
 別に、あいつがどうして休んだのかなんて、興味はないけど。
 酔った勢いも手伝って、俺は携帯電話のメモリを確認すると、一件の番号を呼び出す。
 表示されたのは『 サークル 美智 090XXXXOOOO』という表示。
 俺は何のためらいもなく、発信ボタンを押した。
 呼び出し音が3~4回続く。
 出ないか? 出なければ留守電に変なメッセージ残して…
 と考え始めた時に呼び出し音が途切れた。一拍おいて、おそるおそるといった声が聞こえてきた。
「…はい?」
「おう」
「はい」
「誰か分かる?」
「鷹凪先輩でしょ?」
 何を今更という口調だ。確かにこちらの番号が表示されて、それを見て出たのだろうから、分かるだろう。
「どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞。今日どうして来なかったんだ?」
「今日は授業があるから休んだんですけど…香に聞いてないんですか?」
「あいつはめぐみに言ったらしいけど、俺には言わなかったんだよ」
「…はあ」
 なんで俺がこんな言い訳をしているのかよくわからなかった。
「授業なら仕方ないな。俺はてっきり体よくさぼってるのかと思ったよ」
 だから、すぐこうして茶化す俺の性分は何とかならないもんか…。なぜだか美智と喋ると饒舌になってしまう。彼女が無口な方だからだろう。電話だと、表情が分からない分困る。
 しかし俺の心中を察して、かは分からないが…彼女から喋ってくれた。
「先輩だったら絶対そう思ってると思いました。だから香に絶対に先輩に直接言ってって話しておいたんですけど。彼女忘れてたんですかね?」
「い~や、俺は絶対あいつがわざと黙ってたんだと思うね。あいつ俺よりめぐみに陶酔してるからなあ」
 ただでさえ、香はめぐみのことを心底尊敬しているふしがある。彼女を是非リーダーにと言っていたのに結局俺に決まってしまい睨まれているようだった。おまけに今日の昼間の一件で、ますます嫌われたかなと思う。
「そうですね。後で香に電話してみます」
「今日は、まだ連絡取ってないのか?」
「はい、もうサークル終わったんですか? 返事来ないからまだみんなといるのかと思ってました」
 さっきの飲み会では香もいたはずだ。帰りは…どうだったかな?
「今日は飲み会だったんだよ。俺も今帰るとこだから」
「あ、じゃあ、香は酔いつぶれてるかもしれません。彼女はお酒弱いから」
「そうなのか? あいつ酔うとどうなるんだ?」
「よく喋って、暴れて、ひとしきりしたら寝ちゃいます」
 美智は真面目に答えたが、その内容は意外とひどい言いぐさだった。つい、笑ってしまう。
「先輩、また笑ってます?」
 声を抑えたつもりだったのに、聞こえていたらしい。
「だって、酔って暴れるなんていかにも香らしいだろ?」
「まあ、確かにそうですけど」
 美智も肯定する。きっと香を知っている人間ならみんなそう言うだろう。
「それじゃあ、連絡するのは明日にした方がいいかな」
「そうだな。きっと今日はもう寝てるんじゃないか」
 何気なくいいながらも、俺は内心ほっとしていた。香が酔って昼間のことを喋られると良くない。
 片桐のあの一言には、さすがに俺も引いた。いくら何でもああいう言い方はないだろう。 美智はいまだにあいつのことを引きずっているのだろう。口では平気そうな顔をしているが、あいつが片桐達のことを見る時の顔は、見ているこっちがいたたまれなくなる。
 美智は自分がどんな顔をしているかなんて気付いていないのだろうけど。
 でも片桐にとっては、そんなに大事なことじゃない。なぜ皆がそこまで気にするのかわかっていない風だ。美智にとって片桐が忘れられない大切な人間であるのに、片桐にとって美智はそれほど大きな存在ではないようだ。本人の真意はともかく、周りから見るとそう見える。だから今回のことで美智を同情する奴は多いが、片桐に心底同情している奴は少ない。一部の前科のある男くらいだ。少しあいつらが哀れに思う。まあ俺だってそんなことを言えた立場ではないけど…。
「先輩…あの?」
 突然、美智が何かを言いかけた。
「なんだ?」
「…」
 言いにくい事なのだろうか、少し間が空く。
「この前の、スパゲッティ、ありがとうございました」 
「ああ、別にいいよ。俺も外で食べていこうと思ってたから」
 結局あの日は俺がおごってやったのだ。最後まで自分の分は払うと言っていたけど、最後には無理矢理黙らせた。まだ気にしているのだろうか?
「それで、あの時に、先輩言ってましたよね?」
「何を?」
 何か言っただろうか? あの日のことを思い出す。彼女がどーどか…あ、そういえば格上とか格下とか言ってたっけ?
「『あいつにいつまでも執着するなよ』って」
 少し言いにくそうに。でもはっきりとその言葉が聞こえた。確かにそれを言った。まさか彼女がそれを覚えているとは思わなかった。 
「ああ、そういえば、そんな事も言ったっけ」 
 自分の口から出た言葉はいつも通りの冷静な声だった。でも内心は少し動揺していた。
「先輩覚えてないんですかー?」
 少しほっとしたように、美智が冗談ぽく続けた。
「いちいち覚えてないよ。で、それがどうしたんだ?」
 嘘だ。本当はしっかり覚えている。
「…あの言葉にすごくびっくりしました」
「何で?」
作品名:春雨 03 作家名:酸いちご