妖怪のいぶき
第七夜「夢」
遥か昔、ある村で生まれながらに赤毛で歯の生えた赤子が産まれた。
産婆は「鬼じゃ」と驚き腰を抜かす。
その噂は瞬く間に村中に知れ渡った。
それを聞いた村長は近し日に災難が降り注ぐ前兆ではないかと恐れ危ぶみ、
山ノ神に捧げよと提案する。
父親は懇願し、母親は泣き叫ぶも受け入れられず。
豪雨のさなか、長によりその赤子は山深い神が住し滝つぼへと投げ入れられた。
儚い泣声は流れる轟音と飛沫でかき消された時…
天空に落雷が龍の如く這いずり…長を一飲みにした。
後にこの地域に鬼伝説が浸透した。
あれから、数百年。
代り映えのない風景、滝つぼの北東で岩がせり出し断崖絶壁な場所。
あの赤子が投げ入れられた所。
今現在鳥居が据えられ、
テレビの影響なのかパワースポットとして有名な場所になっていた。
過去に残虐な行為があったとも知らず。
人は過ちを犯す、何度も何度も…彼女もそうだった。
数週間前に自分の胎内より命をかき出した。
だが、後悔していた。自分の行為に…
彼女が滝つぼの白い飛沫を見詰めた時、赤毛の赤ん坊が見えた気がした。
その光景が自身の過ちを攻められているかのようで彼女は意識を失う。
崩れ落ちかけた刹那、疾風が舞い、彼女の腕が誰かの手により引き戻された。
意識の回復と同時に眼前に赤い髪の青年。
その腕の中に居る事に気づく。
「お前のような人間が此処に来るべきではない」
青年は彼女に冷たく言い放つ。
「なぜ」彼女は訳も解らずに言い返した。
「人でなしだから」そう言われ彼女は言葉をなくし再び意識を失う。
そして、夢を見た。
苦しみ抜き産んだばかりの赤ん坊には赤毛で歯が生えていた。
その赤ん坊を滝つぼに投げ入れる自分…
「嫌ぁ~」
次に意識を取り戻した時、彼女は産婦人科の前に立ち尽して居た。
お腹をさすると命の息吹が感じ取れた。
そして、彼女はしっかりとした足取りで反対方向へと歩き出す。
新たな命と共に…
今回の妖怪:天邪鬼、人の心を読み取り口真似などで人をからかう妖怪とされる。
けれど、僕の視点で考えるとこのように人を好きではないが憎み切れてもいない。
そんな妖怪が天邪鬼ではないかと…勝手な思い込みで書きました。