妖怪のいぶき
第九夜「結婚」
僕の母さんは昔やんちゃな人だった。
けれど、父さんと出会ったお蔭で人生が変わったと言っていた。
自分の生きて居る意味がどんなに重要で、
尚且つこの日本の未来に関わっているかが解ったのだからと。
その役割を果たす事が出来たのだから幸福な事よねとも。
そんな穏やかな顔をした母さんがそこに居た。
しかし、これは僕が産まれた時から決められていた儀式。
両親の結婚と共に定められた事実。
…パチンッと音がした。
母さんの長かった髪がベッドの下に切り落とされた。
その髪の毛に目を向けていると氷が溶けるかのように消えた。
これが髪切りの儀式なのかと思った。
僕の目の前には両手が鋭いタチバサミの形をした、
人間とは程遠い烏を想わせる顔の子供…
いや、子供ぐらいの背丈な人ならざる者が僕を見て丁寧にお辞儀をしていた。
僕は軽く手を挙げる。
その行為に満足したのか人ならざる者はフッと消えた。
母さんは…最後ににっこり笑った。
…僕の父さんは数万年生きた妖怪、母さんは妖怪の血を受け継ぐ人。
人と妖が結ばれる時、誓約が生じる。
それは、子供は生涯一人。
そして…その子が15歳になった時。
人の天寿をまっとうする。
それが今日。
僕のいのちと引き換えに母さんは逝った…
あっちの世界へと。
僕は母の命を糧に棘の未来を生きなければならない。
今回の妖怪:髪切り、どこからともなく現れ人に気づかれる事無く髪を切るとされる。
狐の仕業ではないかとも云われる。
そして、一説には髪を切られた人間は重い病に陥る。
また、人と幽霊が結婚しようとすると現れるとされる。
こちらを元に僕のイメージで書きました。