妖怪のいぶき
第十夜「嘘」
陸奥国(むつのくに)に遠野と云われる場所あり。
そこには多くの民間伝承が遺されていた。
そして今でもそれらは多くの人々に信じられまた語り継がれてもいる。
秋深まりし日、観光地【南部曲り家】にあまり見慣れない人物が訪れた。
金髪に碧い瞳、健康そのものといった感じの外人女性。
彼女は目をキラキラ輝かせながら辺りを散策しデジカメにその景観を収めていた。
僕はその似つかわしくない光景を縁側に座ったまま眺めていた。
外人女性の一人旅とは珍しいものだと思いながら…
うっ、目が合ってしまった。どうする、知らん顔を決め込むか。
しかし彼女は僕の方へと歩み寄る。目前まで迫った彼女…
「失礼カモダケド、写真イカ」
に、日本語…助かった。
「あっ、大丈夫、大丈夫」
何が大丈夫なのか。
僕は手渡されたデジカメで曲り家をバックに彼女の思い出写真を撮る羽目に…
「ン?ドシタネ、旨ク撮レナイカ」
「ついてる…」
「エッ何、ゴミ?ナイヨ」
ゴミじゃないけどとは彼女には話さないでおいた。
その後、ほんの少しだが彼女と会話した…
僕は此処に住むモノ。
観光地に住んでるのかと彼女は驚き。
看板に現在も住人が居るので注意と読まなかった?
すると、話せるが読めないと。
そして、不幸続きの憂さ晴らしに好きな遠野物語の地を訪れたとも。
不幸続きか…そりゃあそうだ。
そんな彼女にお守りと言って勾玉のペンダントをあげた。
これで君は大丈夫と言って僕と彼女は二度と会う事のない別れを告げた。
あれから数か月、春まじかな遠野で茅葺屋根の上で仄かな日差しを僕は浴びていた。
すると、あの時の外人の彼女が曲り家の住人にしきりに何かを訴えていた。
聞けば、僕の事や不幸が治まった事などを話していた。
安心したよ…君は幸せになったんだね。
よかった、あの時憑いていた疫病神は居なくなったようだ。
これで、本当に君とは二度と会えない。
だって不幸な君だからこそ僕に出会えた…
今回の妖怪:座敷わらし、人に幸福をもたらすとされている精霊的な妖怪。
古い家の座敷や蔵に住み着くとされている。なお、人を選んで出現するとも…