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Father Never Say...

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あまりひねくれたことを言うな/東海林


 ダメだと思うほど逃げられず、避けたいものほど付き纏う。
 不器用で真面目で、手を抜けない。誰に対しても、どうでもよくとも、向き合うときは真っ直ぐに応じる。
 ──あれは、そういう子供だ。
 
 雇主から緊急の要請を受けて春日家へと車を走らせながら、東海林は過去に思いを馳せた。
 
 東海林飛鳥(あすか)が白河家に仕えるようになったのは九年前、白河聖人が九歳になった頃の事だ。当時まだ高校一年生であった東海林だが、全国模試で上位常連という成績にクラスメイトであった愛美が目をつけ、弟の家庭教師にならないかと誘ったのがそもそもの始まりだった。
 東海林はその頃どうしても金が必要で、割のいいバイトが見つかったと二つ返事で引き受けた。彼にしてみれば、小学生の勉強など遊びにも等しかった。
 
 当時の聖人の成績は、通信簿にアヒルが並ぶほどひどいものだった。本人にやる気はあれど、保健室行きや早退によってまともに授業を受けられないまま四年生に上がった為に、学習内容を理解できるだけの基礎学力が身についていなかったのだ。
 東海林の仕事はそこをうまく補ってやることだった。小学校で四年生の勉強をして帰って来た後に一〜三年生までの内容をやらせるのは時間的にも体力的にも無理があったので、その日の授業で躓いた部分を聖人から聞き出し、そこを重点的に教えつつ、その時期に行っている単元に関連する三年生以前の内容を学習させることにした。
 結果として、この方法は成功だった。教える側の腕もさることながら、聖人が元々頭のよい子供だったため、彼は子供らしい遊興の時間をほとんど削ることなく、みるみるうちに同級生に追い着いていった。それどころか、卒業する頃には、クラス一番の優等生になっていた。
 大学在学中、東海林は聖人の父に、「うちで正式に働かないか」と誘われた。幼少から数々の武道を習い極めてきた東海林を、護衛としても使えると見込んだらしい。
 実際、東海林はストーカーに襲われそうになった愛美をその腕っ節で救ったことがあった。
 特にやりたいことがあるわけでもなく、聖人と接することを楽しんでいた東海林は、大学卒業と同時に聖人の護衛兼家庭教師兼送迎係となり、白河家に住み込みで働いている。時折聖人の母や愛美の外出のため車を出す他はほとんどが待機時間であるが、その時間に聖人の父からほぼ毎日頼まれごとを引き受けるため、暇人というわけでもない。
 
 今日もそのパターンだったのだが、この用事だけは引き受けたくなかった、と東海林は苦笑を浮かべた。
 近くの無料駐車場に車を停め向かった春日家は、しんと静まり返り、玄関には黒枠の貼紙がされていた。中で呆然としているであろう家人を想像しながら呼び鈴をならせば、ほどなくして春日怜が出てきた。
「……どちら様ですか」
 予想通り憔悴仕切った様子の彼にそれをつげるのは憚られたが、それでも東海林は告げなければならなかった。
「突然お邪魔してすまない。俺はこういうものだ」
 東海林が差し出した名刺を、春日は訝りながら受け取り、視線を落とした途端、表情を強張らせた。
「白河、の……」
「ああ。善人さんのご意向でね。君を……引き取りにきた」
 
 春日の母、雅が亡くなったと知らされた善人は、すぐに春日を引き取ることを決め、ひそかに諸手続きを済ませてしまった。
「嫌、だ。誰があの人のお世話に──」
「あまりひねくれたことを言うな。残念ながら君に拒否権はない」
「どうして……」
「もう決まったことだ。とりあえず来てもらおう。荷物のことならこちらで処理する」
 
 ただでさえ母親を失い疲れ切っているだろうに、こんなことを言うのは酷だろうと思う。だが一方で、現実問題それ以外に選択肢はないだろうとも感じた。
 春日はまだ未成年だ。生活していくためには、今しばらく親が必要だった。
「……あの人は」
「うん?」
「白河先輩はこの事、わかってるのか」
「……まだ話していないだろうな。だが問題ない」
「は?」
 理由を告げようと口を開いたとき、懐の携帯電話が喧しく鳴いた。
「すまない……はい、東海林ですが」
『あ、東海林さん。北澤です……聖人のやつ、今日は休みですか?』
「いや……普通に送り届けたはずだが、いないのか?」
『来てないですよ。メールも電話も反応ないし……』
「……わかった。こちらでさがしてみよう」
『はい、よろしくお願いします』
 
 何と言うことだ。こんな時に。東海林は唇を噛み、携帯を懐に戻して春日に向き直った。
「何かあったんですか」
「ああ。だが説明している暇はない。とにかく一緒に来てくれないか」
「……わかりました」
 
 車に乗り込み、再び携帯を手にして聖人の番号を呼び出しながら、東海林は胸中で己を詰った。
(気付いていた……様子がおかしいのは。それで何故放って置いた?)
 春日の一件で頭がいっぱいだったなど、言い訳にもならない。
 
 ──電話は何度かけなおしても聖人に繋がることはなかった。
作品名:Father Never Say... 作家名:9.