花園学園高等部二学年の乙女達
智彦はうろたえた。
初めてだった。…こんな完璧な容姿の人間は、少なくとも自分の周りには。
智彦、朱美、謎の美男子。
三人が中心部に並ぶと、なかなか壮観な風景だ。
智彦はしかし、やはり何も言えない自分に気付いていた。
(…いや)
いくら見た目がよかろうが、馬鹿と下級には興味が無い。
謎の男はモデルの様にすらりとした手足を無造作に振り回した。
その姿さえ美しく見えるのだから始末がない。
「くっそう委員長何の真似だ!僕を売ったな!」
「別に売ってなどいないよー。日本語の使い方間違ってない?本当に裕子に次いで学年2位なの?」
「でなきゃ僕みたいな一般人入れてない!てっいっうっかっ放せっっ」
「ああぁお腹がー。痛いよー。」
朱美は暴れる男にマイクを無理矢理押しあてた。
どう見ても口元がにやにやしている。
哀れな男は「先生助けて!何企んでんだこの人!」とマイクで講堂中に響き渡らせていた。
智彦は不思議な感覚に侵される。
…なんだこの気持ちは?
腹の底から沸き上がる奇妙な高揚感!
…あぁめちゃくちゃにしてやりたい。
完璧な人間を権力で膝まずかせるあの瞬間!
智彦はその欲望に身震いした。
そうか、俺が求めていたのはこれだ。…これなんだ!
この渇きを満たす事が出来るのは、やつしかいないに違いない。
この整った顔が苦悩に満ちた時、また俺の喉は渇きを訴えるだろう。
しかしそれまでやつは…
「先輩」
智彦はさも人の良さそうな、爽やかな好青年の物腰で男に微笑みかけた。
羽交い締めにされた男はんっ?と智彦の顔を見る。
「よろしくお願いします!!」
男は一瞬固まり、その後大輪の花が咲きほこるかのごとく満面の笑みを見せた。
智彦はその美しさに一瞬見惚れてしまったが、すぐに心でにやりとした。
…敵にとって不足なし!
作品名:花園学園高等部二学年の乙女達 作家名:川口暁