花園学園高等部二学年の乙女達
ザワザワと余韻を残し、列をなして生徒たちが講堂を出ていく。
皆が皆、思い思いに今日のお披露目式の男たち、…性格には男2人に女1人…について考えているようだ。
心なしか頬を赤く染めている乙女が多い。
そんななか、智彦は彼にしては珍しく、ぼんやりと歩いていた。
1年生のお披露目式はなかなかおかしな幕閉めで終わった。
謎の美男子は暴れ、朱美は腹を抱えて(智彦には笑っているようにしか見えなかったが)痛がり、一方智彦は二人の値踏みをしていた。
こいつは非力か?
こんな羽交い締めもほどけないなんて。
…そんな乱雑とする会に終止符をうつべく教師に選ばれたのは、いたって普通の女だった。
…きちんと髪を結った目付きの悪い女子高生。
そのたたずまいはおそらく割合上流階級の出だろう。…やけに落ち着いていた。
女は2年部の見しらぬ教師に「神沢!」と呼ばれた。
「神沢!こいつらをなんとかして!」
神沢と呼ばれた女はめんどくさそうに立ち上がった。
いやに肌が白い。
智彦は対した興味もそそられず、さてこの事態をどうやって治めるつもりかな、と見物していた。
多分このくそ真面目そうな見た目からして必死でなだめるのが関の山か…と考えていたが、神沢は智彦が思いもしなかった方法で二人を止めたのだ。
神沢はすうっと軽く息を吸い、ただ一言
「朱美」
と呟いた。
…その瞬間朱美は何故だか腹痛が治り、「えー、新入生諸君入学おめでとう。もう5月になるから少しは学園に慣れたかな?」と語りだした。
…そして美男子は無事釈放された。
…なんとも不可解だ。
朱美は神沢とかいう女に弱味でも握られているのか?
いや、あの手の女が弱味なんかに屈するとも思えない。
…と、智彦はついさっきの出来事を反芻しながら教室へと戻っていた。
そのせいかうっかり隣を歩く美男子を見過ごしそうになっていたが、男が先に気付き智彦に話しかけてきた。
「やぁ、さっきの代表生こんにちは。」
智彦はびくっと横を向いた。
あぁ、ちょうどよかった。
まずはお近づきにならなきゃな。
「こんにちは、先輩。先程は無礼にもすみません。」
まずは控え目に、感じよく謝る。
「全然。すごく嬉しかった。ほら、2年は男子僕一人だから。」
「あぁ、もしかして転校生ですか?」
「うん。…しかしこの学校はなんでこんな変な時期に新入生との交流会があるのかな。まぁ同じく変な時期に越してきた僕が言えるもんじゃないけどさ。」
男が爽やかにハハハと笑った。
周りを歩く乙女達の視線が熱い。
智彦は、こうも見た目がいいのも困りものみたいだな、と考えた。
「この学園は変に時代錯誤なとこがありますからね。新入生がある程度学園の空気に慣れた頃じゃないと何故か先輩達に会わせてもらえないんですよ。中等部とはまた大分違うそうですし。…て、高等部からの編入組が偉そうなこと言えないんですけど。」
男は何も疑わない純粋な瞳、いやそれどころかむしろ後輩の智彦を崇拝の瞳で見てきた。
智彦は少しげんなりする。
…これじゃ蹴落とすのも簡単だな。
「そういえば君、名前は?」
男が階段の別れ際で智彦に聞いた。
智彦は軽やかに答える。
「飯田智彦です。先輩は?」
「芳田咲!花が咲くのさくでサキだよ。」
智彦は爽やかに立ち去る咲の背を見送りながら、思わずガッツポーズしそうになった。
…あいつが噂の『芳田』咲?
やはり不足はない。
作品名:花園学園高等部二学年の乙女達 作家名:川口暁