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花園学園高等部二学年の乙女達

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それぞれの思考①



ハーレムである。


子羊の群れである。


青年はカツンカツンと音を響かせ滑らかな廊下を歩く。


…青年、つまり芳田咲は内心浮足だっていた。


なぜなら今日から彼が途中編入する私立花園学園は、伝統的な元女子高校で、しかも今年から共学化していたのである。


よっていわゆる「男の子」がいるのは1学年のクラスだけであり、また彼は2年生だったのだ。

…つまりは2年部まるまる彼の天下であった。

彼は女の子に好かれるのが好きだ。嫌われるよりずっといい。ふわふわ柔らかで。

ついついにやにやと微笑んでいた己に、渡り廊下の先の全身鏡でやっと気付き、

「いけないな。第一印象が一番大切だ。俺は完璧なまでに王子を演じてやろう。」

と自分で自分を叱咤した。

こんないけすかないことを考えていても彼は天性の王子。
実は演じなくともフェミニスト精神抜群なのであった。

だからそれなりに微笑んでいれば、第一印象など心配しなくともお茶のこさいさいなのである。(本人は全然知らないが。)



歴史ある学園の校舎は比較的新しい。

耐震問題など不安な点が多々あったので、勿論補強工事は既に行われていた。

よってそこら辺の歴史の浅い高校よりも設備が整っていたのである。


咲はぷらぷらと職員室までの道を歩きながら、さりげなく女生徒たちの様子を物色していた。

そして
(まさに子羊。いや猫か?俺一匹が狼じゃないか。)
と半分楽しく、半分鬱陶しそうに呑気に考えていた。

あと数歩で職員室に辿り着く。

彼はこほんと息を整えた。

…その時、自分の横を誰かが通り過ぎた。



つ…


と、何かが咲のYシャツのボタンに絡まる。


細く長く黒い糸。


(…髪の毛だ。)


視線の先には美しくきちんと髪の毛を編んだ少女がいた。

ごく普通の顔立ちであるが、なかなか目付きが鋭く怖い。

雪女のように真っ白な肌をしている。


大量の、(しかも分厚い)本を抱えた彼女は静かに、そしてまっすぐに咲を見た。

「外してくれない?」

ほら、私手がふさがってるでしょ?と腕の中で積まれた本を顎で指す。


彼女は咲が男であることも、また咲がかなりの美少年であることも全然気付いていないかの様な態度であった。


…少しつまらない。


「あぁ、ごめんね。せっかく綺麗な髪なのに。」

咲は全く不自然なく、さらりと褒めて返した。

企みもなく相手を褒められるのが彼の美徳だ。

おそらく顔よりもそちらで人気があったことを、咲は全然知らない。
彼はわかりやすいこと以外、自分のことは全然わかっていなかった。

咲は細い指先で優しく髪の毛をほどいた。
はらりと髪が下に流れる。

「はい、取れた。貸して。半分持つよ」


少女はすっと彼を見つめる。


咲は思わずどきりとした。


「…結構よ。」



彼女、神沢裕子は上司の様な余裕の微笑みで去って行った。