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花園学園高等部二学年の乙女達

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それぞれの思考②



小笠原朱美は暇を持て余していた。
すらっと伸びた形の整っている両足を惜しげも無く投げ出して、頬杖をついて外を見ている。


その繊細で美しい顔立ちは幼稚舎の頃から随分と騒がれてきた。

だが彼女は柔らかいものが大好きだったので、女の子にモテている事実をむしろ喜んで受け入れていた。


(しかし暇だ…。)

神沢はまだ帰って来ないのか?
どうしてああもいつも忙しそうなんだ。

…かといって弱音を見せてくれるわけでもなし。

それに山梨はまた遅刻だし…。



小笠原朱美は自分にとって「特別」な少女達のことを多少苛々しながら考えていた。



いつまで私を待たせるんだ?



「朱美君っ」


胸がやたら大きい割に童顔の、癖っ毛の少女が勢いよく駆けてきた。

デコに汗を光らせている。


「山梨、遅いぞ」

小笠原裕子は不機嫌な声で、でも嬉しそうに返事した。

今までの憂い気な姿を見つめていた周りの少女達は、今しがた浮かべた微笑みとのギャップにほぅと溜め息をついた。

色っぽい…。


「ごめんね朱美君。また寝坊しちゃった。」

小笠原朱美は何も言わずに笑いながら自分のYシャツの袖で少女、山梨和野の汗を拭いた。

「朱美君、お休みの大会勝った?」

山梨和野は大きなくるりとした瞳で背の高い小笠原朱美を見つめた。ふぅと息を整える。

…朱美はこういう「柔らか」な女の子が大好きだ。

でもそんな女の子は我学園には山といる。

けれども彼女は「特別」だ。

「もちろん。主将が負けてどうする?」

「うふふ…!私も勝ったよ!」


朱美はまたかという顔で溜め息をつく。


「…また喧嘩したの?」


山梨和野はぷぅと桃色の唇を尖らせて、

「だって1年坊達が私をしつこく追い掛け回したのよぅ?」

と呟いた。

あぁ気の毒な何も知らない1年生…。


朱美は苦笑いをする。


そしてそれなのに、そんな和野を尊敬してしまう。

「裕子はまた図書室通いなの?」

山梨は悪戯っこのように微笑みながらスカートのプリーツを直している。


ぐいぐいぐい。


「あのこはなぁ…また知らなくてはならないことができたんだって。」

朱美は短く切り揃えた髪をかきあげ、さも嬉しそうに考える。

もう一人の「特別」は少女について。


朱美が初めて彼女を見た時、ずがーんと脳味噌をまっぷたつにかち割られた。


ごくありふれたみつあみの少女に。


だから朱美は3年たった今でも神沢裕子にべったりなのだ。


「ふぅーん。裕子は向上心がたかいよね。常に。」

和野はくるくると指で髪を持て遊びながらそこらの机にぴょこんと飛び乗った。
朱美はそれを聞き薄く微笑む。

「何言ってんだ。私たちは全員負けず嫌いの塊じゃないか。」

「それもそうか。」

うふっと和野がわざとらしく笑う。
…このやりとりは3人の中で決まり文句なのだ。


「…そのおかげで3人つるんでると言っても過言じゃないだろ?まぁでも一番の負けず嫌いはやっぱり裕子かな。あのこはクールな顔で10倍返しだから。」

くくくと朱美は頬杖をつき笑う。

和野は、あっと思い出したように小さく叫んだ。


「そいえば朱美君は転校生が来るって聞いた?」

「まぁね。女の子たち朝から皆その噂で持ちきりだったし。しかしなんでこんな中途半端な時期に越してくんだろうね。いじめかな。…どんなやつだろ。今んとこ王子かデブかで説がわれてるぞ。和野はどっちだと思う?」

聞かれた和野はうーんと首をかしげた。

「わかんないや。まぁどっちにしろ朱美君よりかっこいい男の子は存在しないよ。」

「それは喜んでいいのかな。」

朱美は少し困った笑顔でスカートを指差した。