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花園学園高等部二学年の乙女達

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小笠原朱美はしなやかな己の筋肉を観察していた。
無駄のなく美しい躰。
整った顔立ち。
すらりと伸びた手足。

「おはよう朱美さん。」

「おはようございます朱美先輩。」

「ん?あぁおはよう。」

朱美は自分に羨望の眼差しを送る同級生や下級生たちににこやかに挨拶を返した。
皆恍惚とした表情で彼女を見る。
朱美は渡り廊下にはめられた全身鏡を再びにらみつけ教室へと急いだ。

朱美が同居人たちと朝一緒に登校することはほとんどなかった。
彼女は毎朝部活動の練習へ向かっていた。
そのため他の二人よりも随分早く寮を出、学園につくのである。
練習を終えた朱美は教室へと向かっていた。
朱美は朝早い分授業中に睡眠時間を得るタイプだった。
その上昨日はつい部屋で筋トレを熱心に行い過ぎたのだ。
そのせいで今すぐにでも教室の固い机と椅子に倒れこみたい気分だった。

(…それこれもあのいけすかない王子野郎のせいだぞ…。)

朱美はイライラと階段をかけあがる。
かけあがった先には例のいけすかない王子野郎が立っていた。
朱美は自分のあまりの運の無さに思わず舌うちした。
よりにもよって朝一番に奴の顔を拝まなくてはならないとは。

「おい!どけ王子野郎」

朱美は咲をどつきながら睨んだ。
そんな朱美にさらなる不幸が襲った。
不覚にも赤面してしまったのである。

「…なっんなっおかしいぞお前。今日は異常な色気が出ているぞ!おいっ聞け!」

朝からどつかれた咲は焦点を合わせぬままゆらりと教室に入っていった。
生まれて初めて他人による無視というものを味合わされた朱美はそのあまりの屈辱にしばらく呆然となった。
初めから席に座っていた乙女たちは咲を目にした瞬間これでもかというくらい紅くなり顔を両の掌で覆いかくした。

しかし、やはり咲は挨拶をしない。
どこを見るでもなくとろんとした瞳で席に座る。
柔らかな髪がふわりと揺れた。
そして咲は黙って一直線上を向いたまま何もせずただ座り続けた。
朱美は若干の動悸が治まったのに安堵して思いきり毒付いた。


「…?気持ち悪っ」

こんなおかしなやつに屈辱を味合わされたことがつくづく嫌になってしまったのだ。
咲は何も言わない。
じっと空間を見ている様に見える。
朱美は頭をかきかき自分の机に座った。
そして眠ろうとした。
…その時だった。

「…あ。裕子、おはよー」

神沢裕子が学生鞄をぶらさけながらサクサクと教室に入ってきた。
朱美を見て薄く微笑む。
そして教卓の真ん前で直立に座っている咲を見た。
途端に裕子は動きを止めた。

朱美は半分ショックな、半分好奇心に溢れる気持ちで思わず顔をあげた。
裕子らしからぬ動作だったからだ。

「裕子?どうし…!」

確かにその日小笠原朱美は運が無い日に違いなかった。
愛してやまない最強乙女、神沢裕子がその白く冷たい掌で宿敵の頬を包みこんだのである。

「あっあっあぁ!」

朱美はショックと怒りで眠さを忘れ立ち上がった。
そして咲を殴り倒そうとほとんど真っ白になった頭で本能的に咲の方へフラフラと近寄って行った。

しかし朱美が腕を振り上げる前に本日何度めかのショックが朱美を襲った。
咲はまだ殴られてもいないのにふらりと倒れたのだ。裕子の胸の中に。

「あぁっー!お前っ今すぐ今すぐ今すぐ吹っ飛べ!」

「朱美」

裕子は掌を朱美に向けつきだした。
朱美はつい待てと言われた従順な犬の様にピタリと動きを止めてしまった。
裕子はそのまま咲の頭を包みこみ、サラリと彼の髪をかきあげた。
今度は朱美が倒そうになっていた。