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花園学園高等部二学年の乙女達

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咲は布団に倒れこんだ。
彼のアパートは学園のすぐ近くにある。
比較的新しく、高校生の一人暮らしにはやや広すぎる、かといって決して広くはない間取りになっている。
ここでもまた父と祖父の争いが起き、結局双方が妥協してこのアパートに落ち着いたのだ。
しかし咲から言わせて貰えばもう少し狭いくらいがよかった。初めての一人暮らしは狭くもないと寂し過ぎるのだ。

ただ、父が提案したひどい有り様の化け物がでそうなアパートに住む気は毛頭なかったが。

咲はしばらくそうやって布団に身をまかせていた。
部屋には必要最低限の家具しか置いていない。そのせいか余計にがらんとして見える。

久々にひどい体調だった。

咲は生まれた時から玉の様に美しい健康優良児だったためあまり体調を崩したことがなかった。
したがってまれにみない体調不良にどう対処していいかわからなかったのだ。

ただ自分がかなりの高熱を出していることだけは理解出来た。
咲は布団に倒れたまま考えた。

(父さんは…無理だ。じいちゃんに至ってはイギリスから飛んでくる可能性もある。僕よりよっぽど重症なのにそんなことさせるわけにはいかない。…あぁだめだ…やっぱりじいちゃんの顔をたてて冷暖房完備の部屋にすればよかった。むしろ迷惑をかけずにすんだのに…。)

咲は気付かぬうちにいかんなく己の美しさを発揮していた。
寒い部屋に一人きり、熱にうなされうるんだ瞳と上気した頬。
誰のきがねもなく咲は溢れんばかりのオーラを解き放っていた。
咲の部屋はもう、そこに一歩足を踏み入れた者は老若男女問わず無償に恥ずかしくなって足早に逃げ出しそうな空間となっていた。

「…だめだ…」

咲はそれを最後に眠りについた。
ほとんど気絶に近い状態だった。

咲はぼうっとした頭で幻を見ていた。
真っ赤な花がそこらじゅうに舞っている。
咲は出来るだけ花を踏まないようにゆっくりと道を歩く。
真っ白な世界だ。雪の様に。

咲はだんだん妙なことに気付き始める。
紅い花が咲にかきあつめられている様に思えてくる。
咲はそっと指で払うものの、花は構わずどんどん吸い付けられるかの様に咲を取り巻いていく。

上空を見ると、なんと祖父と父が二人で咲に花を撒き散らしていた。

父は「だから止めろと言ったのに」と気の毒そうに花を撒く。
祖父は「これも修行のひとつだよ」と微笑みながら花を撒く。

咲は自分が花に溺れ死にそうな気がしてくる。
花は次第に熱をおびていき、咲は耐えかねずに花を押しやろうとする。

その時何かがふわりと咲の頬を撫でた。

「…あ」

雪だ。
雪が降ってきたのだ。

柔らかな雪は、ひやりと咲の熱った頬を冷やした。


「…ありがとう」

咲は雪を手にとって微笑んだ。
つんとした顔をして水撒き用のホースで雪を撒く裕子に向けて。