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花園学園高等部二学年の乙女達

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吉田咲はその日、本当に朝からついていなかった。
身内には鼻風邪をひかされ、体育では因縁をつけられ、あげく…

「…なんなんだこれは…」

学生服のボタンが盗まれていた。
卒業シーズンでもないのに体育から帰った咲の制服は、上から下まで、さらには両腕、予備のボタンまでもがごっそりとやられていた。
さすが乙女、やることが若干古風だが不特定多数にやられた咲は嬉しさを通りこしただただ恐ろしかった。

(ていうかこれはもういじめなのでは…)

何度も言うが咲は鼻風邪をひいていた。
故に寒いのである。
しかも体育までも北風にさらされていた。
故に悪化したのである。
さらに悪いことに咲は男だった。
故に北風吹く男子トイレ(慌てて新設された1年部の階である。2年部には未だ男子トイレが存在しなかった。)で一人着替えをしていた。

その上学生服の消えた咲に学生服を貸してくれる男子学生は存在しないのだ。
咲は目の前が暗くなるのを感じた。

(…え…これまずいだろ…これは本気で寒い…)

咲はカタカタと小刻に震えながらボタンのない学生服をとりあえずはおる。

(なんか…間抜けだなぁ…)

咲は色々な切なさがこみあげ益々憂いげな空気を漂わせた。
それはしんしんと清潔に降り積もった白銀の雪を想わせる幻の様な美しさだった。

体操服を抱え、トイレを出た咲は小さくくしゃみをした。
そして教室へ向かうため階段を降りて行く。
階段には静かで平和な空気が流れている。

中辺りまで下りると、下の方からカツンカツンと正確に階段を上る音が聞こえてきた。
咲は反射的に先を見る。

徐々に現れた姿は、見覚えのあるきちんと編みこまれたみつあみの少女だった。

(…あ…副学級委員長の…)

神沢裕子は機械の様な正確さで階段を上っていた。
咲はなんとなく顔をそらす。
通り過ぎた瞬間、すっと花の香りがした。

(…)


白い肌の残像。

咲は小さく胸が一度だけなったのに気付いた。
不思議だ。
なぜか彼女を見ると、妙に緊張する。

(…)

「くしゅん」

咲は寒さと共に自分の間抜けな姿を思いだし、無償に恥ずかしくなって先を急いだ。
その時…

バサッパサッ


「わっ」

何かが咲の頭に落ちてきた。

咲は慌てて上を見上げた。


咲の頭に当たったのは裁縫セットと使い捨てカイロだった。

「えっ神沢さん?!これもらってもいいの?」

咲の心臓は今やおかしいくらい小刻みに振動しはじめていた。
しかし、上から返ってきたのは思いもかけない返答だった。


「…これ以上細菌を巻き散らさないでちょうだい。」

裕子は黒髪の残像を残し、スタスタと階段を上って行った。


「…細菌…」

咲はぽかんと立ち尽していた。
その間にも裕子の低く正確な足音はどんどん遠ざかっていく。そしてついには全くの静寂に包まれた。

咲は裕子が消えていった階段の角にまだ裕子の残像が残っているような気がしてならなかった。
そして気がめいる様な感覚の後、溜め息をついて階段を降りていった。