拾い零したのはなあに?
「え、私が聞いたのは中の人がシートベルトしたままって話だけど」
「うわぁ……それってまんま自殺じゃない?」
「おかしいのはなんであの女性が、ってトコだよね」
「再婚したばっかりで幸せだっただろうにって?」
「ううん」
少女たちは顔を突き合わせ、小さな声で話す。
「あの屋敷の主人、今朝窒息死で見つかったらしいよ」
「うそ!」
「財産が入る筈なのに自殺なんておかしいじゃない?」
「え、じゃあおば様が殺したの?」
「そうじゃないかって、うちのママは言ってる」
「おば様はおじ様のこと好きだったんでしょう? それでも?」
「おじ様はおば様よりも娘の方が可愛かったんだって」
「…………うわあ」
「でも、おばさまが死んだのは昨日の夜でしょう? それに私、ブレーキが壊されてたって聞いたわ」
別の少女の問いに少女は潜めていた声を普段のものに戻した。
「そうなの? それ、初めて聞いた」
「何を初めて聞いたの?」
ひょこりと顔を出した銀髪の少女に少女たちの視線が集まる。
一気に集まった視線に少女は怯むこともなく首を傾げた。
「おはよ。で、何の話?」
「いや、ちょっとね……ってアンタその頬どうしたの?」
「ああコレ? 可愛いお人形からの報復というか……。まぁ、台風がやってきたのよ」
頬に当てられたガーゼを困ったように笑いながら撫でる。しかし声は困っているどころか慈しみまで含んでいるような色をしていた。
「ところで彼は? まだ来てないの?」
「あいつならまだ……っていうか来ないと思うよ」
「どうして?」
教室を見渡した銀髪の少女は見慣れた茶色がないことに疑問を持つ。そして返された言葉に目を細めた。
「あいつの家、妹だけを残して皆消えたのよ」
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「お兄ちゃんはお肉。ママは藻屑。パパは……」
川辺に座り込んで指折り数えている。
「パパは……何かなぁ」
空は快晴。水分を含む雲はどこにも窺えない。
咲いてしまった薔薇の先には、朽ち果てるしかなかった。
*
作品名:拾い零したのはなあに? 作家名:佳奈