私のやんごとなき王子様 理事長編
『こんなにもどかしいと感じたのは初めてだよ』
え?
私が一人幸せを噛み締めていると、理事長はため息まじりにそう言った。
『君を今すぐ抱きしめたいのに、出来ないだなんて―――』
ああ……
なんというストレートな言葉だろう。
打ちのめされそうな程の甘いその言葉に、私はギュッと目をつぶる。
遠く離れているのに、理事長のコロンの甘い香りが私を包む。
「私も、もどかしいです……近くにいられないなんて」
すうっと涙が一筋こぼれた。
『……ごめんね』
「あっ、やだ! すみません、違うんです! 謝らないでください。理事長は悪くないんですから」
謝る理事長に私は慌てた。
寂しくないなんて言ったら嘘になる。やっぱり寂しいし、もっと傍にいたいって思う。だけど理事長は何も悪くない。
『ひとつ、お願いを聞いてもらえるかな?』
「はい。私に出来る事なら」
何でも持っている理事長に、私がしてあげられる事なんて何もない。精々おかゆを作ってあげる事くらい……
『それじゃあ、卒業式の日に、改めて君に告白をさせてくれないか?』
「え?」
私は耳を疑った。
今、理事長は何て言ったの?
戸惑いを隠せず返事が出来ないでいる私に、理事長は落ち着いた声で言った。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文