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私のやんごとなき王子様 理事長編

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 私はさなぎ達が出て行った出口とは反対の、庭へと向かうオープンテラスへと向かった。
 ドアを開けると夏の日差しが一瞬にして私を照りつけ、暑さと眩しさで顔をしかめながら通話ボタンを押す。

「も、もしもしっ」
『やあ』

 あの優雅で落ち着いた声が受話器の向こうから聞こえてきて、私の胸は高鳴る。

「こんにちは」

 テラスを降りて木陰に身を隠し、木の幹に背中を預けて笑顔で挨拶をした。
 たったこれだけで私の心は満たされてしまう。
 そう、電話がかかってきたというだけで幸せなのだ。

『もしかして、勉強中だったかな?』
「いいえ、休憩中でした」
『そう。受験生とはいえ、勉強ばかりではいけないからね。適度な休息は大事だよ』
「はい」

 自分の半分の年齢しかない子ども相手だというのに、私に会話を合わせてくれる理事長の気遣いが嬉しい。

『……はあ―――駄目だな』
「どうかされたんですか?」

 急に沈んだ声音になった理事長に、私は首を傾げる。
 また仕事のし過ぎで体調が思わしくないのだろうか。

『君の勉強の邪魔をしてはいけないと分かっているのに、君の事ばかり考えてしまって……こうして何もないのに電話やメールをしてしまう。僕の方が君よりもうんと年上なのにね』

 そう言って電話の向こうで小さく笑った。
 私は胸が締め付けられそうになった。だって、いつも理事長の事を考えているのは私の方。

「駄目なんかじゃないです……電話やメールを頂けただけで私は嬉しいし、幸せなんです」
『ありがとう。そう言ってもらえるととても嬉しいよ……』
「―――――」

 互いに無言になってしまい、私は何を話そうかと必死で考える。
 だけど話さなくてもこうやって同じ時間を共有している事が楽しくて、このままでもいいか。なんて思ってしまった。