私のやんごとなき王子様 理事長編
後日談
演劇祭が終わり本格的な夏休みに入った私達は、受験生ということもあって毎日学園の図書館に通っていた。
私達、というのは、私とさなぎとさなぎの彼氏の米倉君の3人のこと。
お昼にさなぎと私が作ってきたお弁当を3人で仲良く食べ、そのまま中庭のテラスで学園のカフェ名物のチャイを飲んでいた。
さすがお金持ち学校。チャイも本場インドの茶葉とスリランカのスパイスを輸入しているから本格的だ。名物という通り、味も最高。
「ああ〜。もうあっという間に夏休みも終わって秋だよ。そしたらすぐに受験……やだなあ〜」
さなぎはチャイを美味しそうに飲んでいたかと思ったら、背中を椅子にぐったりと預けて天井を睨んだ。
「佐和山は大学進学するんだろ?」
「うんそう。美羽と同じとこに行くつもりだよ。米倉も一緒の大学行こうよー!」
「そうだね、佐和山達と一緒なら楽しそうだし」
「やった! これで大学でも一緒にいられるね! 美羽も一緒だし、絶対毎日楽しいじゃん!」
「なんか私はおまけみたいね〜」
本当に二人は仲良しだなあ。見てるこっちも楽しくなる。
「やだ、何言ってんのよ! おまけは米倉だって!」
「えっ? 俺、おまけ!?」
「あははは〜。嘘嘘、どっちもメインだってば〜」
すっかり二人の世界をつくるさなぎと米倉君の様子に微笑み、私はふと外を見た。
深緑の木々はもうもうと枝を伸ばし、セミ達が懸命に合唱している。
夏休みも残り少し。受験戦争まっしぐらな私達だけど、この学園を卒業するのはやっぱり寂しい。
この学園を選んだおかげで私は大好きなあの人と出会う事が出来た。それを考えると、いくら学園内で滅多に会えなくても卒業してしまうのは寂しい気がする。
「美羽〜? どうしたの?」
「えっ? あ、ううん。なんでもないよ」
ぼんやりと想い人の顔を思い出していた私は、さなぎに笑顔を向ける。
「もしかして、彼の事考えてた?」
「やだもう、彼じゃないってば!」
演劇祭の後、私は理事長に海辺で告白された。
奇跡のような告白に驚きながらも、私の気持ちは決まっていたからすんなりと受け入れる事が出来た。というより、絶対に放してはいけないと思った。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文