私のやんごとなき王子様 理事長編
「……ありがとう」
優しい理事長の腕に抱きしめられ、私は何度も何度もありがとうと囁く理事長の声に酔いしれた。
理事長は私を選んでくれた。綺麗で大人びた水原さんではなく、私を。
絶対に叶わないと思っていた想いが通じたのだ。
きっともう二度とないだろうこの幸せを、私はきっと逃したりしない。
「理事、長……私も、理事長に、恋をしても……いいですか?」
嗚咽の隙間からそう尋ねると、そっと私の頭を撫でながら理事長が答えてくれた。
「もちろん。嬉しいよ……ゆっくり、一緒に歩いて行こう」
「はい……はい!」
音の無い夕日と岩礁の花火が、じっと私達を見守っていた。
この学園に入って良かった。この理事長と出会えて良かった。
偶然だったけど、あの時真壁先生に迎えに行くように言われなかったら、こんな幸せを得る事は出来なかったのだ。
「健亮には、何かお礼をしないといけないな」
同じ事を考えていたらしい理事長は、私の体を放して指で涙をぬぐってくれると、そう言って笑った。
「ふふ……そうですね」
ゆっくり行こう。
時間を掛けてゆっくりと。
演劇祭を成功させたように、私達の恋が成功するように―――
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文