私のやんごとなき王子様 理事長編
「わあ……」
岩場の向こうにはとても幻想的な世界が広がっていた。
真っ赤な夕日が海の上に点々と広がる岩礁に光を落とし、まるで花火のように赤と黒の影を海一面に見せていた。
私はそのあまりの美しさに言葉を出せずにいた。
なんて綺麗なんだろう――――
「ここはね、昔僕が好きだった人と初めて来た場所なんだ……」
ピタリと動きを止め、私は思わず理事長の顔を見据えた。
聞きたくない……好きだった人の話しなんて聞きたくないのに、理事長の穏やかな声は耳を塞ぎたくなる私の手を縛ってしまう。
夕日に照らされた理事長の顔は泣きそうにも見えて、私の胸は更に苦しくなった。
「前に臆病だったから告白出来なかったと言ったよね。本当はね、ここでその人に告白するつもりだった。だけど、言えなかったんだ……」
前に理事長は自分に自信がなかったから、その人に告白出来なかったと言っていた。だけど、きっと理由が他にあるんだ。
もしかしたらそれを誰かに聞いて欲しいのではないかと思った。
「――どうして、言えなかったんですか?」
無意識のうちにそう尋ねていた。
「その人に、先に告白されたから」
「え?」
驚いた私に、理事長は一歩近づいて笑う。
「僕以外の男が好きなんだと、打ち明けられたんだよ」
「あ……」
「僕はまだ子どもだった。一人で勝手に舞い上がって、彼女を好きだと言う気持ちばかりが勝ちすぎていたんだ……彼女の事を考えてあげてなかった。彼女は僕の気持ちに気付いていたのかもしれないね。ここには二人きりで来た訳じゃなくて、他にも友人達数名と来ていたんだけど、その中の一人、僕の友人の事を好きなんだと彼女が言ったんだ」
そんな……こんなに素敵な理事長じゃなく、他の人を好きだなんて―――
「こんな話をして、馬鹿な大人だと思うだろう?」
いいえ……そんな事ありません。
黙って首を振ると、理事長はもう一歩私に近づいた。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文