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私のやんごとなき王子様 理事長編

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 どれくらい走ったか、私達は県外の海へとやって来ていた。
 夏だというのにその小さな海岸に人気は無くて、とても穏やかに波が打ち寄せている。

「疲れてない?」
「平気です」

 そう言って理事長はスーツのジャケットを脱いだ。

「今日の演劇祭はとても素晴らしかったね」
「はい……」

 傾きかけた太陽を目の端に捉えながら、私は歩き出した理事長の後を着いて行く。

「小日向さんには僕の手伝いばかりさせてしまって、申し訳なかったね。最後の演劇祭だったのに」
「そんなことありません。演劇祭の手伝いもたくさんしましたし、それに……理事長のお手伝いなんて普段出来ない事を経験させて頂いて、とても嬉しかったですから」

 肩越しにこちらを振り向いた理事長の目に、私はゴクリと唾を呑み込んだ。
 あまりに美しいその瞳は、私の邪な気持ちを見据えているみたいに思えたから。

 そう、私は理事長ともっと仲良くなりたかった。もっと理事長の事を知りたかった。水原さんのように告白する勇気もないくせに、理事長にもっと私の事を知って欲しいと思っていたのだ。
 ギュッと肩に力を入れて足元に視線を落とすと、理事長は歩みを続けながら言った。

「そう言ってもらえると嬉しいよ―――でも僕はね、とても卑怯なんだ」

 卑怯? 
 理事長の口から出た言葉に思いを傾ける。一体それはどういう意味だろう。

「さあ、こっちだ」
「あ」

 海岸の岩場まで来ると、理事長は軽々と昇って上から私に向かって手を伸ばした。
 私はその手を掴み、スカートを引っ掛けないように岩場を昇った。