私のやんごとなき王子様 理事長編
学園では授業中にふらりとどこかの教室に入って来て授業を見学することはあるけど、基本忙しい人だから話す機会は滅多にないのだ。
ちょっと特別な時間を持てたことを嬉しく思っていると、向こうから真壁先生が走って来るのが見えた。
「あ、真壁先生」
「本当だ。せっかくの楽しいデートを邪魔されてしまったね」
いたずらっ子のように肩をすくめて笑う理事長に、私も吊られて笑顔になった。
「ふふっ、残念です」
「小日向さん、また僕とデートしてくれるかな?」
「えっ!? そんな、わ、私なんかでよければっ!」
からかわれているんだろうけど、思わず焦ってしまう。
「悪かったな、小日向。お前に頼まなくても良かった」
と、丁度そこへやって来た真壁先生が、申し訳なさそうにそう言った。
「健亮もなかなか気が利くようになったじゃないか」
「は?」
「こんなに可愛らしい子を僕の迎えに寄越すなんて」
そう言って微笑んだ理事長に私は見蕩れてしまった。
だってだって、すごく繊細でしなやかな笑顔なんですもの!
「可愛らしい? ははっ、良かったな小日向!」
「もう、先生!」
茶化す先生に頬を膨らませると、理事長がまた私を見て笑ってくれた。
「本当に可愛らしいよ、小日向さんは……そうだ、今日は取材が来るんだったね」
「はい、昼過ぎに来る予定です」
「そう。それじゃあ小日向さんには僕のお手伝いをしてもらおうかな」
「えっ? お手伝い、ですか?」
そんな、私に理事長のお手伝いなんて無理だよ! なんの知識もないし……。
「お手伝いと言っても取材用の部屋の準備だけだから」
私の心中を察したのか、理事長がそう言った。
「え、でも……」
まだ戸惑う私に、今度は真壁先生が横から口を挟む。
「今日は秘書の田中さんはいないんですか?」
「彼は僕の代わりに今日は出張中でね、ここへは明後日来る予定なんだ」
そっか、秘書さんがいないんだ。それじゃあ仕方ないよね。それに部屋のセッティングなら私でも出来るかも……。
うんと小さく頷いて、私は顔を上げた。
「分かりました、私でよければお手伝いさせて下さい!」
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文